イベリア半島の付け根、スペインとフランスの国境に連なるピレネー山脈。標高1,000〜3,000メートル級の峰々が約450キロにもわたって続くこの山脈は、アルプスと並ぶヨーロッパ屈指の景勝地です。今夏は、この山々の魅力を堪能していただくべく「殊の旅」として、ピレネーとその周辺に連泊する旅を企画しました。
この旅を特別感のあるものにしているのは、ピレネーでの滞在場所です。スペインのバルセロナを訪れた後に滞在するのはアンドラ公国。名前は耳にしたことがあっても実際に滞在した人は少ないかもしれません。国土の面積は石川県金沢市とほぼ同じという小さな国ながら、実はほかの国にはない魅力が満載です。そもそも公国とは「公爵が治める国」のこと。13世紀、スペインのウルヘル司教とフランスのフォア伯爵の間で対等の領主権を共有する契約が結ばれて以来、今も両者の共同統治が続いています(現在フォア伯爵側の領主権はフランス大統領が継承)。10年ほど前まではタックスヘイヴン(租税回避地)として知られていました。2012年以降、諸税が課せられるようになりましたが、それでも近隣の国々に比べ税額が低いことから、ヨーロッパ各地から多くの人が週末に買い物に訪れます。
しかし、この国の一番の魅力といえば、ピレネーの大自然でしょう。何しろ国が位置するのは山脈のなか。首都アンドラ・ラ・ベリャからして標高1,400メートルを超える場所にある同国は、一国丸ごと山岳リゾートといっても良いかもしれません。
ホテルは、冬はスキー、夏はトレッキングと、アウトドアを楽しむ人などで1年中賑わいますが、なかでも優雅な滞在を望む人たちの期待を裏切らないのが、今回連泊する「スポート・ホテル・エルミタージュ&スパ」です。スキーエリアの前に建つリゾートホテルで、建物自体もサービスも優雅そのもの。木を多用した温もりのある内装の館内はどこもゆったりとしていて、心地良い空間です。広々とした客室にはバルコニーもしくはテラスが備えられ、日の長い夏には、朝だけでなく夕食前のひと時も、緑の山々を部屋からお楽しみいただけるでしょう。広大な敷地を有する充実のスパもここに滞在する人々のお目当ての1つです。
滞在中のお楽しみとして欠かせない食事にも定評があります。朝は、窓の外に山を眺めながらのビュッフェ朝食。ホテルが誇るレストラン「イバヤ」では、夕食をお楽しみいただきます。料理を監修するのは、これまで数々の賞を受賞してきた注目のスペイン人シェフ、フランシス・パニエゴ。彼の出身地であり、スペイン有数のワインの産地、そしてグルメの街として知られるスペイン北部リオハ地方の味を、ワインとともにぜひご堪能ください。
アンドラ公国に2泊した後は、ピレネーの麓にあるフランスの街ルルドに連泊し、今度はここを拠点にピレネーを満喫します。
ピレネーの魅力は、場所によってまったく異なる表情が見られること。スペイン側で訪れるのは、ロマネスク様式の教会群で知られるボイ谷です。緑の山々と青い空を背景にそびえる石造りの素朴な聖堂は、まるで1枚の絵のような美しさ。これらの教会を有名にした内部のフレスコ画の実物は、保存のためバルセロナの国立カタルーニャ美術館に展示されていますが、ご心配は無用です。ツアーでは旅のはじめに美術館を訪れ、実物を鑑賞していただくので、現地での感慨はより深いものとなることでしょう。
牧歌的なスペイン側の景観に対し、フランスから見るピレネーは迫力満点です。ツアーでは、標高2,877メートルにあるピック・デュ・ミディの展望台をロープウェーで訪れます。周囲に視界を遮る高い山のないこの地は天体観測所があることで知られており、展望台からは、はるか彼方まで続く山並みが一望のもと。“眼下”というより“足下”に望む山々の景観は、深く記憶に残るものとなるに違いありません。
さらに特筆すべき景観に出あえるのがガヴァルニー圏谷です。圏谷とは、氷河の侵食によってできたU字型の谷のことで、それはまるでローマ時代のコロッセオを巨大にしたよう。ここを訪れた作家ビクトル・ユーゴーがこの谷を“自然の大劇場”と表現したことも大いに納得できます。
最後に、ルルドの光景についてもふれておきましょう。この街は“奇跡の地”と呼ばれていますが、それは、1858年、14歳の少女が聖母マリアのお告げによって泉を発見し、その水が難病を治すなど数々の奇跡を起こしたとされているため。今も、奇跡を信じ、世界各国から多くの人が訪れており、車椅子やストレッチャーでこの地を目指す人も少なくありません。4〜10月の間は毎夜、ロウソクを手にした人々が行列をつくり、聖母に祈りを捧げる儀式が行われます。幻想的なこの光景は、見ているだけで厳かな気持ちになります。
多彩な表情を見せる夏のピレネー。この涼やかな山の世界を、存分にお楽しみください。