2019年、海外からの観光客受け入れを開始したサウジアラビア。今、新たな海外旅行先としてこの国に世界の注目が集まっています。門戸開放の背景には何があるのでしょう。気になる現地の様子やおすすめの観光所と合わせ、サウジアラビア政府観光局のお2人にお話を伺いました。
インターネットの発達で、今や世界中の情報がいつでも潤沢に手に入る時代になりました。ただその一方で、未知の世界への好奇心を得にくくなったと感じている人は少なくないかもしれません。そんな方にぜひご紹介したい渡航先が、サウジアラビアです。
商用や巡礼以外を目的とした入国に長らく制限を設けていたこの国が、2019年、日本を含む49カ国を対象に観光ビザの発行を開始したのです。
「すべての変化は2016年策定の国家成長戦略『サウジビジョン2030』からはじまりました。これは脱石油経済とサウジ国民の生活の質の向上を目指し、今後の核となる産業の具体的な目標を掲げたもので、ここから社会は劇的に変化しています」。こう語るのは、サウジアラビア政府観光局日本支局長の小早川薫さんです。なかでも観光業は注力すべき産業に位置付けられ、たとえば現在6つある世界遺産を2030年までに倍増するといった目標も掲げられています。
これまで教徒以外の立ち入りを禁じていた聖地メディナを観光客に解放したことも、観光促進に向けた国の決意の現れでしょう。周知のとおり、イスラム教の始祖ムハンマドが生まれたサウジアラビアには二大聖地があります。教義により教徒が一生に一度は訪れるべき場所とされているのがムハンマドの生誕地メッカ。ここは今も観光客は立入禁止ですが、ムハンマドが移住したとされる第2の聖地メディナに関しては、モスク以外の観光が可能となったのです。10本のミナレット(尖塔)がそびえる「預言者のモスク」は100万人収容可能という、とてつもない規模。外観だけでもこの地の特別さを感じることができるでしょう。
人々の暮らしも大きく変わっているようです。今年3月、現地を訪れた同国政府観光局事業開発マネージャーの岡田有希帆さんによれば、変化が最も顕著なのはエンターテインメント分野とのこと。現地では数万人規模の音楽やアニメのイベントが開催されており、「かつて娯楽自体が禁止されていたことを考えれば非常に大きな変化」と言います。
女性の服装についても、2018年、改革推進の中心人物ムハンマド皇太子(今年九月から首相を兼任)が、長衣の民族衣装であるアバヤの着用義務はないとの見解を示し、自由化の方向が打ち出されました。現地の様子について「多くの女性は今もアバヤを着用していますが、カラフルなものを身に着けるなど、ラフに巻いたヒジャブ(髪や首を隠す布)とともにおしゃれを楽しんでいましたね」と岡田さん。
旅行者が自由に観光できる環境も整えられています。男女ともに服装規定として示されているのは「節度ある服装」。「女性は、上は袖があるもの、下は膝が隠れる丈であれば大丈夫」と小早川支局長が語るとおり「街歩きも食事も通常の服装で何も問題ありませんでした」と岡田さんは振り返ります。
飲食に関しては、イスラム教国のなかでも厳しく教えを守る国だけに制限はあるものの、異文化体験として楽しめる範疇の不自由さでしょう。お酒は持ち込みも含め一切禁止ですが、「フルーティなノンアルコールビールを気に入る人も少なくないようですよ」と小早川支局長。「料理に豚肉は一切使われませんが、その代わりラム肉や牛肉などのおいしい料理が楽しめました」と岡田さんもにっこり。
古代よりアジア、アフリカ、ヨーロッパの交わる場所として重要な役割を果たしてきたサウジアラビアは、もとより見るべき場所に事欠きません。たとえば同国初の世界遺産である古代遺跡マダイン・サーレハ。ナバテア人の遺跡としてはヨルダンのペトラ遺跡に次ぐ規模です。実物を目の当たりにした岡田さんは「広大な砂漠に100余りの墓跡が点在する風景が本当に美しくて。歴史の深さも感じました」と印象を語ってくれました。遺跡近くには、映画『アラビアのロレンス』で描かれたヒジャーズ鉄道の跡地もあります。
街も多彩です。マダイン・サーレハ観光の玄関口となるアルウラは、砂漠のなかの宿場町といった趣。一方、首都リヤドは、近代的なビルが建ち並ぶ大都会です。リヤドに次ぐ第2の街ジェッダは紅海に面した都市で、歴史ある古民家が並ぶ旧市街アル・バラド地区は散策にぴったりです。「繊細な細工が施された出窓など、ほかでは見られない独特の街並みが楽しめます」と小早川支局長。岡田さんのおすすめは、各地の伝統建築や文化を伝えるアル・タイバット博物館だそうで、迷路のように小部屋が連なる展示に「3日はここにいられると思うほど楽しい」と太鼓判を押します。
三越伊勢丹ニッコウトラベルが来年1〜2月に催行するサウジアラビアへのツアーでは、リヤド、アルウラ、メディナ 、ジェッダに滞在。日本の約六倍の面積を有する同国を航空機の利用で無理なく移動しながら、マダイン・サーレハやディライーヤといった遺跡のほか、高さ約300メートルの崖「世界の果て」やタママ砂漠など大自然の景観を楽しみます。
日本人にとってサウジアラビアは、距離的にも文化的にも遠いイメージの国かもしれません。しかし現地を訪れた岡田さんは、意外な感慨を得たそうです。
「他人を尊重し、温かくもてなす人々の姿に日本人に近いものを感じました。現地の人に聞くと、それはおそらくイスラムの教えを大切に守っているからとのこと。世界中から教徒を迎えてきたこの国には、もともと多様性を受け入れる土壌があるのだと思います」
未知なる国の扉は開きました。情報なき時代の旅の高揚感を、サウジアラビアへの旅で、今一度味わってみてはいかがでしょうか。
日時:11月16日(水)午後2時より
会場:三越パーキングビル3階
三越伊勢丹ニッコウトラベル 東京営業所ゲストルーム
アクセス:半蔵門線・銀座線三越前駅 B4出口またはA2出口より徒歩約2分
このたびサウジアラビア政府観光局の岡田さんをお招きし、国の魅力や現地事情についてお話しいただく機会を設けました。知られざる国の見どころは? お食事やホテル事情は? 感染症の現状は?など、岡田さんが今年3月に現地を訪れた際のエピソードを交え、画像とともにご紹介します。ご質問などもお気軽にどうぞ。
写真協力:サウジアラビア政府観光局