約2年半前の2020年3月、多くの皆さまにご期待いただいたアルハンブラ宮殿貸切見学の旅。中止を余儀なくされたこの一大イベントを、2023年3月、再びご案内できることとなりました。その舞台となるのは、スペイン黄金期のはじまりの地といえる魅力的な街、グラナダ。この街を核とする7コースの多彩な旅を、再び皆さまのご期待にお応えすべく、ここにお届けします。
シエラネバダ山脈の麓の街グラナダ。大都市マドリードやバルセロナの陰に隠れがちですが、アラビア的な香り漂うこの街こそ、実はスペインを語るうえで欠かせない重要な場所です。この国の黄金期はここからはじまったといっても過言ではありません。グラナダの特異性を知っていただくため、少し歴史を振り返ってみましょう。
ここイベリア半島に北アフリカからイスラム王朝ウマイヤ朝の軍勢が上陸したのは8世紀のことでした。当時、半島を支配していた西ゴート王国は、異教徒の攻勢に屈し、ここから800年近くにおよぶイスラム支配がはじまります。これは、キリスト教とイスラム教の戦いのはじまりでもありました。イスラム王朝はその後、半島のほぼ全域を支配しますが、部族間の抗争やキリスト教徒によるレコンキスタ(国土回復運動)によって次第に勢力を弱め、13世紀半ば、領土は半島南端のグラナダ周辺のみとなります。
こうした状況下、レコンキスタの猛攻に晒されながらも外交手腕を発揮して支配を続けたのがナスル朝グラナダ王国でした。グラナダ随一の名所アルハンブラ宮殿は、その初代の王ムハンマド1世が建設をはじめた宮殿です。小高い丘につくられた城壁の内部には、宮殿のほか、住宅、市場やモスクなどが整備され、一時は貴族を中心に2,000人以上が暮らしていたそうです。
しかし、栄華を誇った王国もやがて弱体化。宮殿は1492年、イサベル女王とその夫フェルナンド王のカトリック両王に無血開城されます。万策尽きたナスル朝最後の王ボアブディルは悲嘆に暮れながら宮殿をあとにしました。
ツアーでは、イスラム王朝の栄華の象徴であるこの宮殿を、古の静けさを取り戻した閉館後の時間帯に、貸切りで見学します。宮殿内部に広がるのは、無骨な外観からは想像できないほど壮麗な世界。青い空と精緻な建物を映し込む中庭の池、繊細な透かし彫りが施された窓、ステンドグラス越しの光が照らす広間など、水と光を巧みに使った建築は見事というほかありません。一歩足を踏み入れた瞬間の感慨は忘れ得ぬものになることでしょう。日が暮れれば、建物を照らすライトが宮殿の別の表情を見せてくれます。
カトリック両王の手に渡った際に破壊されることなく残されたのは、宮殿の美しさに感じ入った両王が存続を命じたためだったとか。美しき宮殿が見届けた栄華と落日の日々に、現地でぜひ想いをめぐらせてみてください。
宮殿見学翌日には、本場フラメンコのショーを堪能いただく機会もご用意しました。哀愁漂うこの伝統の舞いは、もともとアンダルシア地方に暮らしたロマ族とイスラム文化の融合で生まれたといわれます。本場ならではの味わいを感じていただけることでしょう。
再びキリスト教徒の手に戻ったグラナダの街は、カトリック両王の支配のもとで次なる時代を迎えます。モスクは教会へと改装され、イスラム教徒のみならず、異教徒に寛容なナスル朝支配のもとで共存していたユダヤ人たちも次第に街を追われてゆきました。しかしイスラムの影響は街にさまざまな形で残されます。旧市街の中心にある大聖堂も然り。レコンキスタ完了後、カトリック両王がモスクの跡に建設を命じたこの大聖堂は、1523年にゴシック様式で着工されたものの、その後、複数の様式を折衷させたプラテレスコ様式に変更されました。繊細な装飾を特徴とするこの様式はイスラムの影響を受けたものとされています。ステンドグラス越しの光が照らす内部は厳かな空気に満ち、黄金の主祭壇が見事です。 街には、「覚悟」が見える場所も点在しています。大聖堂に隣接する王室礼拝堂もその1つで、カトリック両王の遺骸を収めるために1540年から建設がはじまりました。両王は1521年の完成を見ることなく没しますが、その後、2人の遺骸はここに安置されました。かつてのモスクの隣に墓所をつくること自体に為政者の強い意志が見えます。
グラナダが無血開城された1492年は、奇しくもコロンブスが新大陸を発見した年でした。コロンブスに資金援助をしていたのが何を隠そうイサベル女王。スペインはここから大航海時代と呼ばれる黄金期を迎え、世界に冠たる国家を築き上げます。大国の基礎を築いた2人がこの街に眠っていること自体が、何よりグラナダの重要性の証でしょう。
白壁の家が並ぶかつてのアラブ人居住区アルバイシンや、ロマ族が洞窟住居に住んでいたというサクロモンテの丘など、グラナダの街並み自体も歴史を伝えています。旧市街の中心ビブランブラ広場近くのアルカイセリアは、イスラム時代にスーク(市場)だった場所。各種スパイスに色とりどりのランプや布、革製品などを売る店が並び、まるでアラブの国に迷い込んだかのよう。テテリアと呼ばれるアラブ風の喫茶店が並ぶエリアもあり、歩いているだけで気分が湧き立ちます。
そしてグラナダにはもう1つ、ご紹介したい隠れた名所があります。それがカルトゥーハ修道院です。街の中心から少し離れた場所にあるこの修道院は、1506年から3世紀にわたって建設が続けられたスペイン・バロックの傑作。外観こそスペインの乾いた大地を思わせる無骨なものですが、なかに入るとその印象は一変します。大理石の彫刻、金や銀の細工などで装飾された内部の煌びやかなこと! 過剰ともいえるほど手の込んだ装飾に圧倒されます。外観と対照的なこの内部の装飾には、自分たちが信じるものの偉大さを示したいという強い気持ちが垣間見える一方、豊かさを必要以上に外に見せないアラブ様式の影響も感じとれます。この建物が「キリスト教のアルハンブラ」の異名をもつことも至極納得でしょう。
グラナダ観光を、アルハンブラ宮殿の見学だけで終えるのはなんとももったいないこと。街を歩けば、この地に宿る光と影をそこかしこで感じていただけるに違いありません。
今春は、知られざるグラナダの観光とアルハンブラ宮殿貸切見学を含む多彩な旅を7コースご用意しました。
まずはグラナダを含むアンダルシア地方をじっくりめぐるコース。大都市マドリードとバルセロナにも滞在しますので、はじめてスペインを訪れる方にもおすすめです。グラナダ、マドリード、バルセロナの3都市周遊については、ほとんど歩かずにお楽しみいただける「ゆったり度3」のコースもご用意しています。スペインの別の顔も知りたいという方には、情熱の祭典と呼ばれるバレンシアの火祭りの見学を盛り込んだコースや、美食の地として人気となっているバスク地方を訪れるコースはいかがでしょうか。芸術がお好きであれば、ダリ、ガウディ、ピカソら同時代の巨匠たちが集ったカタルーニャ地方の光と色彩を楽しむ旅がお選びいただけます。さらに、イベリア半島にありながら異なる歴史を歩んだ隣国ポルトガルと組み合わせたコース、グラナダから空路でジブラルタル海峡を越えモロッコのマラケシュを訪ねるコースもご用意しました。
いずれのコースも、快適な空の旅をお楽しみいただくべく、日本発着便のビジネスクラスも確保しております。また、エコノミークラスよりシートスペースが広く、リクライニング範囲が大きいプレミアムエコノミークラス(一部コースを除く)もおすすめです。