一度は訪れたことがある方も、まだ見ぬ魅力を知る旅へ出かけませんか。旅の舞台は、ヨーロッパの南西端に位置するイベリア半島。この旅では、絶景、美食、芸術と三者三様のテーマを体現するホテルをご用意しました。物語のあるホテルに泊まり、個性豊かな地方の魅力を満喫する。イベリア半島を愛する企画担当・森脇潤がおすすめする3コースです。
私が「これは世界一だ!」と感動した夕陽を見る旅からご紹介しましょう。ユーラシア大陸の最南西端にあるポルトガルのサグレス。かつてローマ人はこの地を「世界の果て」と考えました。最果ての地であることを最も体感できる場所が、サン・ヴィセンテ岬です。実際に訪れた時の高揚感は忘れることができません。目の前には大西洋の大海原が広がり、聞こえてくるのは波と風の音。断崖絶壁が続く景色の先には、赤い屋根の灯台がぽつんと佇んでいます。灯台へ導くように続いているまっすぐな一本道。夕陽に照らされた大西洋が黄金色に輝きはじめます。遮るものがなく、水平線へ沈んでいく大きな夕陽。その光景に心を震わせながら、「世界の果て」を全身で感じる時間を過ごしました。
サグレスはベストセラー紀行小説『深夜特急』にも登場します。著者の沢木耕太郎さんは、14カ月にもわたるユーラシア大陸横断の長旅でこの街に立ち寄り、旅の終結を決意します。それほど人の心を動かす力がある“旅人の聖地”をぜひ体感してください。
今回のコースでは、「ポザーダ・デ・サグレス」に2連泊。このようなコースはなかなかないのですが、“世界一の夕陽”を堪能するために連泊する価値があると自信を持っておすすめします。ホテルからも大西洋を一望できるので、夕陽を思う存分にご堪能ください。エンリケ航海王子ゆかりのサグレス要塞も訪れます。ポルトガル人が新大陸を目指した大航海時代を深く知れば、夕陽もさらに味わい深いものになることでしょう。
12日間の旅のルートは、リスボンから入り、サグレスがあるアルガルベ地方から、イベリア半島の南側を沿うようにスペインへ。セビージャやカディス、ロンダなど白い街並みが美しいアンダルシア地方の魅力あふれる街も訪れます。後半には、英国領のジブラルタルへ。ヨーロッパとアフリカを隔てる海峡を一望します。
2つ目のコースは、美食を楽しむスペインとフランスの旅。世界屈指の美食の街として知られるサン・セバスチャンをはじめとするバスク地方とワインの名産地リオハ州を訪れ、食文化を満喫する9日間です。
サン・セバスチャンといえば、楽しみはバル(居酒屋)めぐり。生ハムやバスクチーズケーキなど、お店ごとに得意なメニューが違うので、飽きることはありません。バルめぐりに最適な場所に佇むホテル「ロンドレス・イ・デ・イングラテッラ」に3連泊し、旧市街散策やフランス側のバスク地方観光もお楽しみいただきます。夕食では、地元名物のバルにご案内。手づくりの「バルめぐりマップ」もご用意していますので、ご希望の方は添乗員と一緒にピンチョス(食材を組み合わせて串で刺したひと口料理)をより楽しんでみてはいかがでしょう。
ポイントはリオハの小さな村エスカライに佇む料理宿「エチャウレン」に宿泊すること。部屋数は20室余りですが、世界中の美食家が「エチャウレン」を目指し、時間をかけてこの地を訪れるほど、大好評のオーベルジュです。かねて注目していたのですが、長年の交渉の末、やっと客室を確保することができました。
125年の歴史を重ねているこの宿の物語をご紹介しましょう。オーナーのフランシス・パニエゴは“母の味”を大切に受け継ぎ、家庭料理のレシピを洗練された料理に昇華し、美食の宿として知られるまでにした有名シェフ。彼の母親であるマリサは、スペインのナショナルガストロノミー賞を受賞した最初の料理長です。彼の祖母も含め、一族は料理人の家系。代々受け継いだレシピも多く、なかでもクリーミーな食感のコロッケを「最高のコロッケ」と称する人もいるほどです。メインダイニングの「エル・ポルテル」で、洗練された“母の味”を地元リオハのワインとともに心ゆくまでお楽しみください。
最後にご紹介するのは、ダリ、ガウディ、ピカソなどの芸術家たちがこよなく愛した南仏と、スペインの北東に位置するカタルーニャ州を訪れるコースです。州都であるバルセロナは数多くの芸術家たちが多彩な芸術活動を繰り広げた街としても知られています。
バルセロナを語るうえで、ガウディは避けては通れません。サグラダ・ファミリアは2番目に高い聖マリアの塔もできあがり、今年中にはさらに4つの塔が完成予定となりました。しかし、バルセロナにはガウディだけでなく、皆さんに知っていただきたいもう1人の巨匠がいます。その名は、モンタネール。“花の建築家”と異名があるほど、華麗で優雅な装飾が作品の特徴です。若くして建築学校で教鞭をとり、ガウディを教えていた時代もあります。
彼の最高傑作といわれる「カタルーニャ音楽堂」や、芸術には人を癒やす力があるという理念のもとにつくられた「サン・パウ病院」を訪れ、この街の真髄を感じてください。
3連泊する「カサ・フステル」は、モンタネールの集大成といえるホテルです。20世紀初頭に当時の最先端の建築として誕生しました。私が宿泊した際に心打たれたのは、客室のメッセージカードなど、細やかなサービスです。さらに特筆すべきはホテルの立地。「カサ・ミラ」や「カサ・バトリョ」などの名建築が一堂に会するグラシア通りがこのホテルからはじまります。朝な夕な気ままに芸術散歩をぜひ楽しんでください。
そのほかにも、南仏が誇る世界遺産の街カルカソンヌの城塞内ホテル「ド・ラ・シテ」宿泊や、故郷フィゲラスにある「ダリ美術館」など見どころ満載のコースです。