4つの国の連合体である英国の正式名称は「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国」。その国旗ユニオンジャックは、16世紀にイングランドへ統合されたウェールズを除く、3国の旗を重ねたもの。本特集では、複雑な歴史を今に伝える英国の構成国と、独立を果たしたアイルランドの魅力に迫ります。民族の誇りと独自の文化、そして圧倒的な自然美に彩られた、2つの島の孤高なる物語をお楽しみください。
イギリス人が出身地を問われると、イングランドやスコットランドといった4つの構成国名で答えるケースが多いものです。それは、地域ごとに民族的ルーツや宗教的背景が異なり、それぞれが独自の国としての歴史を歩んできたからにほかなりません。
彼らの際立った気質の違いを、パブ文化の国らしく描いた有名なジョークがあります。「パブで飲んでいる最中、もしビールにハエが落ちたらどうするか?」というお話です。格式を重んじるイングランド人は、眉をひそめて店員を呼び、丁重に新しい1杯と交換させます。大らかなアイルランド人は、指でハエをつまみ出すと、まったく気にせずそのままおいしそうに飲み干します。そして、徹底して無駄を嫌うスコットランド人は、ハエの首根っこをつかみ上げ、1滴も無駄にするまいとこう叫ぶのです。「お前が飲んだ私のビールを返せ!」と。英国で親しまれているこのユーモアは、3国の国民性を実に巧みに、そしてユーモラスに言い表しているといえるでしょう。
グレートブリテン島とアイルランド島には、遥か先史時代からケルト系民族が居住しており、グレートブリテン島に広がった主要な集団は「ブリトン人」と呼ばれていました。紀元1世紀、ローマ帝国が侵攻して属州「ブリタニア」としましたが、5世紀に軍が撤退すると、今度はゲルマン系のアングロ・サクソン人が到来し、東南部での定住範囲を拡大していきました。彼らの支配地は「アングル人の土地」に由来する「イングランド」と呼ばれ、そこで育まれた言葉が、現代へと続く英語の基礎となります。一方、追われた先住の人々は西方でウェールズを、北方ではピクト人と融合してスコットランドの文化的基盤を築きました。また、ローマ化を免れたアイルランド島では、ケルト文化とカトリック信仰が色濃く残り、独自の修道院文化が花開きます。こうした背景が、後の宗教的・文化的な地域差を生む大きな要因となりました。
中世以降、4つの地域は独立した王国として発展しつつも、抗争と統合を繰り返します。ウェールズは13世紀末にイングランド王権に組み込まれ、スコットランドも17世紀の同君連合を経て、1707年に正式に合邦。さらに1801年にアイルランドが加わりますが、20世紀に南部が共和国として離脱し、現在の「連合王国(UK)」が成立します。こうした多層的な歴史の積み重ねこそが、それぞれの土地に彩り豊かな文化を育む土壌となりました。紅茶や陶磁器、自然の恵みである芳醇なウイスキー、そして歴史を乗り越える力となった音楽やダンス。これら各国の個性は、今なお旅人をひきつけてやまない魅力となっているのです。
エリザベス女王生誕100周年に合わせ、2026年、ロンドン中心部の「リージェンツ・パーク」内に女王を偲ぶ庭園がつくられる
イングランドの魅力は、悠久の時を刻む街並みと、心洗われる緑豊かな田園風景の調和にあります。その中心となる首都ロンドンは、英国の歴史と誇りが凝縮された王都です。テムズ河のほとりに威風堂々とそびえる「ウェストミンスター宮殿(国会議事堂)」は、世界初の議会制民主主義の舞台。この宮殿の時計塔から響きわたる「ビッグ・ベン」の重厚な音色は、ロンドンの象徴として人々の心に刻まれています。すぐそばに建つ「ウェストミンスター寺院」は、歴代国王の戴冠式やロイヤルウエディングが執り行われてきた聖地。ゴシック様式の荘厳な尖塔を見上げれば、英国王室の1000年の歴史が肌で感じられることでしょう。
議会政治のシンボルにふさわしい、ゴシック・リバイバル様式の壮麗な「ウェストミンスター宮殿」(国会議事堂)
1066年のウィリアム征服王以来、歴代国王の戴冠式が執り行われてきた「ウェストミンスター寺院」
王室の居城「バッキンガム宮殿」は、限られた時期にのみ、特別な姿でお客さまを迎えます。例年、国王一家がスコットランドで休暇を過ごす夏の期間(7月から9月頃)に限り、宮殿内部の公式広間(ステート・ルーム)が一般公開されるのです。重厚な家具調度品で設えられ、公式行事でも使われる19の広間は、まさに豪華絢爛。英国の中枢に足を踏み入れる高揚感は、なにものにも代えがたい体験といっていいでしょう。そして、古今東西の文明の遺産、約800万点を収蔵する「大英博物館」。今回のツアーでは「開館1時間前の特別入場」という特典をご用意しました。一般客の喧騒がない静寂に包まれた展示室で、「ロゼッタ・ストーン」やギリシャの彫刻群と対峙するひと時。さらに、通常はガイドの説明が許されていない「ミイラルーム」にも、特別に解説付きでご案内します。人類の歴史と1対1で向き合うような濃密な時間は、知的好奇心を満たす最高の贅沢となるはずです。
775もの部屋を有する、英国王室の公式居城「バッキンガム宮殿」
200万年以上にわたる人類の歴史と文化を網羅する、世界最大級の博物館「大英博物館」
多くの英国人が愛するカントリーサイドも、この国の奥深い魅力です。コッツウォルズ地方は、中世の面影を残す場所。ウィリアム・モリスが“イングランドで最も美しい村”と称えた「バイブリー」や、古美術店が並ぶ「ブロードウェイ」での散策は特におすすめです。また、無数の湖と緑の山々が連なる湖水地方は、ナショナル・トラスト発祥の地。イングランドの原風景のなか、「ウィンダミア湖」クルーズやSL「ハヴァースウェイト保存鉄道」での旅情あふれるひと時をどうぞ。
湖畔にかわいらしい村々が点在する、 イングランド最大級の湖 「ウィンダミア湖」
田園風景のなかに伝統的な石造りの建物が連なる、“最も美しい村”「バイブリー」
美しいハチミツ色の建物が並ぶ、“コッツウォルズの宝石”「ブロードウェイ」
自由時間は英国文化の象徴であるパブへ。「パブリック・ハウス(公共の家)」を略した社交場は、カウンターでその都度払うスタイル。フルーティーな「エールビール」を名物フィッシュ・アンド・チップスとともに味わえば、英国の夜が一層思い出深いものに。
今回のイギリス周遊コースで宿泊する、貴族の邸宅を改装したマナーハウス