[ 海外特集① ]
いつか行きたかったあの国へ
アラブ・オリエントへの快適旅
企画=坂尾美浩/篠原陽子
文=佐藤淳子
ドバイ、オマーン、モロッコ、ヨルダン、イスラエル……以前から気にはなっているけれど、距離的、文化的な遠さからなかなか一歩踏み出せない。もしかしたら、そういう方は少なくないかもしれません。異文化世界ならではの刺激にあふれたこれらの国々には、快適な旅のための要素が揃っています。いつか行きたいと思っていたあの国へ、来年こそ足を延ばしてみませんか?
古き良き時代のアラブ世界 オマーンの古都マスカット
『千夜一夜物語』を彷彿とさせる光景が目の前に広がったかと思えば、世界一背の高いビルが天を突き刺す近未来的風景が現れる。そんな新旧のアラブ世界を楽しませてくれるのが、オマーンとアラブ首長国連邦(UAE)の旅です。
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アラビア海を望む港町マトラ。幻想的な夜景の美しさでも人気
たとえば、オマーンの首都マスカットの市場、マトラ・スークは、古き良き時代のアラブ世界を体感できる場所。色とりどりの布や雑貨、スパイスなど多種多様な店が並ぶ市場を歩けば、穏やかな国民性で知られる人々が醸し出す、のんびりとした賑わいが感じられるでしょう。敬虔なイスラム教徒の多いオマーンには街中にモスクが点在しますが、そのなかでイスラム文化を紹介するため広く旅行者に開放しているのが、2001年に完成した美しいスルタン・カブース・グランド・モスクです。白く輝く大理石の床、巨大なシャンデリアにペルシャ絨毯など、イスラム文化の粋を集めたともいえる内部は見応えたっぷりです。
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王宮や国立博物館などの見どころが集まるオールドマスカット地区
“世界一”が勢揃い ドバイで近未来を体感
一方、UAE随一の観光都市ドバイは、古の時代を今に伝える歴史地区やスークを有する一方、近未来的な要素にも事欠きません。世界最大の人工島「パーム・ジュメイラ」、世界一の高さを誇る828メートルのビル「バージカリファ」など、多くの“世界一”があるのもその証。街中にあらゆるレベルのホテルが揃うほか、少し足を延ばせば、まるで砂漠に現れたオアシスのようなホテルでの滞在を楽しむこともできます。アラブの伝統舞踊を楽しみながらの夕食や、砂漠をオレンジ色に染めながら沈む夕景は忘れがたい印象を残すことでしょう。
UAEの1つアブダビの、「ルーブル・アブダビ」も見逃せません。2017年、パリのルーブル美術館が初の海外別館として開業して話題になったこの館は、海上に浮かんでいるかのような外観も含め、建築物としても必見です。
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ドバイの「パーム・ジュメイラ」は、人工衛星からも確認できる世界最大の人工島
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“砂漠のオアシス”のようなホテル「バブ・アル・シャムス」で静かなひと時を
アラブ・オリエントへの快適旅
ヨーロッパは目と鼻の先 多様な文化が根付いた国
古くから交通の要衝として多様な民族が行き交ってきた北アフリカのモロッコ。この国にはアフリカ、アラブ、ヨーロッパなど多様な文化が混じり合ってできた独特の空気が流れています。たとえば、大西洋に面した北部の港町タンジェに広がるのはスペイン風の街並み。その理由はこの地を訪れてみればすぐにわかるでしょう。今回の旅では、2018年に開通したアフリカ大陸初の高速鉄道「LGVモロッコ」でカサブランカまで列車の旅を楽しみますが、その出発地であるタンジェの街からは、ジブラルタル海峡越しにヨーロッパ大陸が眺められます。スペインはもう目と鼻の先なのです。
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マラケシュのメディナの中心にあるジャマ・エル・フナ広場。賑わうのは夕刻から
イスラムの国々のなかでも大らかな宗教心を持つ人が多いとされるのも、そうした地理的要因からくる多様性ゆえかもしれません。
もちろん、イスラムの教えは人々の生活に当たり前のように浸透しています。早朝、モスクからは礼拝の時間を告げるアザーンが静寂の街に響き、モスクでは1日5回の祈りが捧げられます。「持つ者は持たざる者に与えよ」というイスラムの教えから、1日1回の施しを心がけている人も多いそう。現地の日本人からは、駅でチョコレートを食べている少女と目が合ったら「食べる?」と尋ねられたという微笑ましいエピソードも聞かれます。ミントティーでの休憩をはさみながら、巨大スークのあるマラケシュや“迷宮都市”フェズのメディナ(旧市街)を散策すれば、そうした独特の空気感を肌で感じられるはずです。
豊かな街の色彩を楽しむ 名物の工房めぐりも
いながらにして、アラブの伝統美に浸れる機会もあります。それが、伝統的なアラブの邸宅「リヤド」を改装したホテルでの滞在。今回、マラケシュ、フェズ、シャウエンの3都市の宿泊先に、この「邸宅ホテル」をご用意しました。アラブの建物らしく、シンプルな外観からは想像もつかないほど内部は壮麗。緻密な彫刻が施されたアトラス杉の天井飾りや幾何学模様のモザイクタイルなど、アラブ特有の装飾にあふれた館内は一見の価値ありです。パティオと呼ばれる中庭からは陽光が差し込み、建物のなかにいても開放感たっぷり。快適な環境で、異国を旅する高揚感を存分に味わわせてくれることでしょう。
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フェズの王宮。門に施されたアラブ建築の幾何学模様が美しい
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モロッコのイスラム王朝最古の都、フェズ。迷路のようなメディナの散策も旅の楽しみ
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フェズの「リヤド・メゾン・ブルー」。繊細なアラブ式装飾が華やか
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高級感あふれるマラケシュの「ラ・メゾン・アラブ」のレストラン
街の色彩が楽しめるのもモロッコの魅力。マラケシュはピンク、カサブランカは白、というように、それぞれの街に色があります。この国では、伝統的に日干しレンガで家が建てられてきました。レンガはその地の土からつくられるため、こうした色の違いが生まれたそうです。ただしシャウエンの街を彩る青はレンガがゆえんではありません。虫除け、避暑、宗教など、由来には諸説あり定かではありませんが、いずれにせよこの街の美しさは、長らくイスラムの聖域として閉ざされてきた歴史も相まって旅する人に強い印象を残します。
旅の楽しみはまだまだ。大西洋に面した南部の港町エッサウィラとその近郊では、伝統工芸である寄木細工や名物アルガンオイルの工房を訪れます。多くの芸術家を魅了した穏やかな街の空気とともに、海沿いの街ならではのシーフード料理もご堪能ください。
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青に彩られたシャウエンはどこを切り取っても絵になる街(©︎旅パレット)
岩の裂け目の古代都市 あの名作映画にも登場
ヨルダン、イスラエルと聞くと、遠い地と感じるかもしれませんが、これらの国は敬遠するにはもったない魅力にあふれています。
ヨルダン最大の観光名所といえばペトラ遺跡でしょう。岩山を割くように続く深い溝。今から約2000年前、この溝の最下部を街道として、ナバテア人の都ができました。最盛期には約3万人もの人が暮らしていたといわれます。その後ローマ帝国の支配や大地震、交易ルートの変化などを経て栄華の時代は終焉を告げ、この地は地元の遊牧民族ベドウィンだけが知るものとなっていきました。長らく幻の遺跡となっていたのは、特異な地形が天然の要塞の役割を果たし、岩山の下に広がる世界が多くの人の目にさらされる機会がなかったため。この壮大な古代遺跡が世界の注目を集めるようになったのは、1812年にスイス人探検家が発見してからというから驚きです。
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映画『インディ・ジョーンズ 最後の聖戦』にも登場したペトラ遺跡。その規模に圧倒される
訪れてみれば、この遺跡の特異さにますます驚かれることでしょう。ハリソン・フォードとショーン・コネリーが共演した映画『インディ・ジョーンズ 最後の聖戦』(1989年)では、ここで撮影が行われました。主人公たちが探し求める聖杯が隠された神殿として登場したのが、高さ約80メートルもの岩の壁の間を進んだ先にある、王の宝物殿「エル・ハズネ」。もしかしたら映画を見てセットだと思った方もいるかもしれませんが、これは、2000年以上前につくられた正真正銘の巨大遺跡。砂岩の建物は陽光に照らされるとバラ色に輝き、美しさでも見る者を圧倒します。さらに奥にある大神殿「エド・ディル」をはじめ、広大な土地にはほかにも多くの遺跡が点在します。
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絶壁に挟まれた道を歩いた先に現れる巨大な宝物殿
死海での浮遊体験 優雅なスパ体験も
ヨルダンには、もう1つ世界に知られる観光名所があります。それが、隣国イスラエルとの国境にある死海です。ご存じの通り、塩分濃度の高いこの湖に身を浸せば体がぷかぷか。ここはぜひ、水着ご持参で稀有な浮遊体験を楽しんではいかがでしょうか。
イスラエルでは、エルサレムに2連泊して、聖書にまつわるゲツセマネの園や、イスラエルの偉大な王として知られるダビデ王の墓、ユダヤ教徒が祈りを捧げる嘆きの壁などをじっくりめぐります。キリスト教、ユダヤ教、イスラム教という3つの宗教の聖地であるこの地の厳かな美しさは、現地を訪れてこそ感じられるもの。今回の旅では、エルサレムを拠点に、聖家族が暮らしたとされる伝説の地ナザレや、新約聖書によるイエス誕生の地ベツレヘムなどにも足を延ばします。
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3つの宗教の聖地であるエルサレムには厳かな空気が流れる
世界各国から旅行者が訪れるこれらの地には、快適なホテルも揃います。死海では、スパ施設を併設した「モーベンピック・リゾート&スパ・デッドシー」に滞在。美容効果のある成分を多く含むといわれる死海の泥を使ったスパ体験も好評です。
来年こそ、この魅惑のアラブ・オリエントの世界へぜひ。
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死海では「体が沈まない」という珍しい感覚が味わえる
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ペトラ遺跡にほど近い「モーベンピック・リゾート・ペトラ」