19時半、いよいよ宮殿の小さな扉がゆっくりと開く。バチカンのなかでも重要な彫刻が並ぶ八角形の中庭からはじまる特別観賞。月夜に照らされ、音のない環境での彫刻は特別に映る。有名な『ベルヴェデーレのアポロン』は、修復を終え、数週間前にここに帰ってきたばかり。そして隣にはバチカンの至宝『ラオコーン』。普段は人の頭で彫刻をゆっくり拝むことすら許されない。今回は、60名という貸切りをさらに4つのグループに分けているので、グループ内でも重なることがほぼない。「タペストリーの間」、続くいにしえの「地図の間」——長い直線の廊下は幾度となく歩いたが、消失点がわかるほど先が見える経験ははじめてだ。
「ラファエロの間」は、4つの小さな部屋に人が往来する混雑必至の場所だが、彼の最高傑作『アテナイの学堂』も、人混みを気にせず鑑賞することができた。そして「システィーナ礼拝堂」に辿り着く。ここは通常、なかでの説明はおろか私語さえも禁止であるが、今回は礼拝堂内での説明も許可してもらった。本物を前にガイド氏の説明にも力が入る。リアルな壁画と天井画を右に左にそして上に、角度を変えながら見る贅沢。人類史上の傑作を前に、じっくりと思いを馳せた鑑賞は紛れもなく特別な時間であった。
実際の演奏シーンに出あうことは少ないのがパイプオルガン。今回は、イタリア屈指の規模を誇るフィレンツェ大聖堂のパイプオルガンを、大聖堂音楽監督のマエストロに、特別に目の前で試し弾きをしてもらった。貸切鑑賞で内部を見学してから用意された特別席に着く。メディチ家の庇護を受けたヴァザーリらが描いたクーポラの下、数億円かけて最新の機器に変えたという鍵盤一式は素人には複雑怪奇。キコキコと足で踏み、鍵盤とボタンを操作しながら奏でるマエストロのオルガンの音色は大聖堂内のバラバラに置かれる4つのパイプに届き、縦横無尽に私たちの耳に響いてくる。閉ざされている扉の向こうの人々は何を思うのだろう。なかに入るための行列を避けて通れないフィレンツェの大聖堂は、貸し切ってこその特別な夜となった。
さて、今宵は晩餐会が開かれた。そして興奮冷めやらぬ夜、ホテルの客室でこれを書いている。どうやら時間切れのようだ。ここから先は、写真だけを送って、いち早くこの記事で皆さまにお届けしたいと思う……。
この秋、大好評を博したイタリア4大モニュメント貸切見学の旅。ご要望にお応えして、2025年3月に再び、この特別企画をお届けできることになりました。今回は花の香りに包まれるメディチ家のヴィラを訪ね、地元で愛されるレストランで春の美味も堪能します。さらに、市民が暮らす古代遺跡として知られる、ローマのマルチェロ劇場の訪問も。柔らかな陽光が迎えるイタリアで、特別感満載の貴重なひと時をお楽しみください。
バチカン美術館にあるシスティーナ礼拝堂を皮切りに、フィレンツェで花の大聖堂(ドゥオモ)、ヴェネツィアでは豪華絢爛なサンマルコ寺院、ミラノでダ・ヴィンチ作の『最後の晩餐』と、混雑知らずでイタリア4大モニュメントとじっくり向きあえる旅。フィレンツェでは、フェラガモが所有する宮殿での晩餐会も待っています。
春の訪れを楽しむ今回の旅では、メディチ家の2つのヴィラを訪ね、花々に出あうひと時も盛り込みました。
ルネッサンス期、数々の芸術作品を今世に残すことに貢献したメディチ家の邸宅は、今もトスカーナの各地に残されています。最も古い歴史を持つのは、「ヴィラ・カステッロ」。現在はウフィッツィ美術館の至宝となっているボッティチェリの『春』などが飾られていたことでも知られる邸宅は、手入れの行き届いたイタリア式庭園が実に見事です。春風に揺れるハーブや花々の香りに包まれながら、優雅な散策を楽しみましょう。
もう1つ訪ねるのは、丘陵地に佇む「ヴィラ・ペトライア」です。メディチ家の歴史が描かれた壁画、ガラス張りの屋根から光が降り注ぐ華やかな舞踏室など、トスカーナに君臨した名家の栄光にたっぷりと浸れる空間が待っています。広大な幾何学式の庭園を彩るのは、新たな季節を告げる花々。丘の上からの雄大な眺めとともに、春の喜びを感じられるひと時です。
春の食材で市場が賑わう季節。各地で楽しめる旬の美味も見逃せません。
パスタが自慢のローマでは、この時期にこそ味わいたい「グリーチャ」をどうぞ。豚の頬肉の塩漬けとチーズを使ったパスタで、香り高く新鮮な春野菜との組み合わせが絶妙です。
春野菜のスープ「ガルムージャ・ルケーゼ」は、ルッカの名物。一般に出回るのは3月中旬ですが、今回は特別にいち早く、人気店でご用意します。
牧草が成長する春は、牛や羊のミルクが特においしくなる季節でもあります。春に絞られたミルクを24カ月寝かせたペコリーノチーズなど、この時期ならではの味をご堪能ください。
今回のツアーでは、ちょっとユニークな遺跡を訪ねるとっておきの機会もご用意しました。古代ローマ最大級の野外劇場「マルチェロ劇場」です。よく見ると、上の階にはガラス窓がはまっています。実はこの建物、市民が暮らす現役のアパートでもあるのです。
紀元前17年には完成していたとされるマルチェロ劇場は、コロッセオの見本になった建物といわれており、柱とアーチが横に並ぶ外観などが非常によく似ています。豊かな時代の象徴だった巨大な劇場は、ローマ帝国崩壊とともに終焉を迎え、やがて廃墟に。中世には貴族の城塞として使われ、20世紀に入ってから、建物の修復が進められました。現在は住居として分割されている上層部には、数家族が暮らしを営みます。
この旅では、その住まいを特別に訪問する機会を実現しました。“古代ローマ遺跡での生活”が垣間見られる貴重なひと時をお楽しみください。
イタリアをはじめて訪ねる方はもちろん、再訪の方も別次元の感動に包まれる旅。春の光のように、いつまでも心に煌めく時間が待っています。