秋から冬にかけてのヨーロッパには、じっくりと楽しみたい魅力がたくさんあります。この時期に味わいたい味覚や自然景観、そして芸術鑑賞……。その場所ならではのテーマを決めてゆったりと旅することで、より思い出深い体験ができます。この季節にこそ訪れたかった、そんな場所へでかけてみませんか。
歴史を刻んだ異国の街並みのなかで味わうお料理は、味わい深く思い出に残るもの。そんな味覚を求めて、まずはピレネー山脈西部、スペインとフランスにまたがる地域に広がるバスク地方を訪ねてみましょう。一帯は、山海の食材が豊富で、男性が調理し料理を楽しむ「美食倶楽部」もあるほどです。
バスク地方でぜひ訪れたい街の1つが、海に面した風光明媚なスペインのサン・セバスチャン。世界的グルメ雑誌に掲載されるレストランがある一方で、地元の人たちに愛される気軽なレストランも軒を連ねます。「レシピ」を保存・共有し、お互いに高め合うという、まさに「食」の街です。
店先で気軽に味わえる、「串」料理のピンチョスを試すことなく、この街を離れることはできません。店によって味が違うので味比べをしてみましょう。定番のアンチョビとオリーブ、イベリコハムとチーズ、エビのニンニク炒めをパンに乗せたものなど、ひと品3~4ユーロで気軽に楽しめます。
近郊には日本人シェフが腕を振るう注目のレストランもあります。前田哲郎シェフの「Txispa(チスパ)」は2023年に開業し世界的グルメ雑誌で「一ツ星」を獲得。外見は堅牢な農家風、屋内は温かみとモダンさが共存した落ち着いた雰囲気のお店で、人気の「薪火料理」は日本のお客さまにも大変好評です。おいしいものがたくさんあるサン・セバスチャン。海を望む心地よいホテルに滞在して「食」の冒険を楽しみましょう。
イタリアの料理は、地方によって食材や味付けが異なるのが大きな魅力です。たとえば北西部の街トリノ。北にアルプスの峰々、その南に大穀倉地帯が続くピエモンテ州の州都であり、かつてはフランスにルーツを持つサヴォイア公国の都でした。トリノの南に広がるピエモンテ丘陵はワインの名産地。宮廷料理の影響を受け、もちろん美食の地でもあります。たとえばランゲ地区の街ブラはスローフード発祥の地。高級ワインで知られるバローロのワイナリーでは、自慢の赤ワインとともに、地元の食材を活かしたお料理が味わえます。秋のピエモンテを訪れるなら、トリュフもぜひ味わいたいところ。毎年「白トリュフ祭り」が開催されるアルバでは、名産地ならではの白トリュフを用いた料理が楽しめます。
一方でフランス南東部の街リヨンも美食家憧れの地。多くの名シェフを生んだ「食の街」です。古くから交通の要衝であり繊維産業などで栄えた街でした。第1次世界大戦がはじまると男性の料理人が減り、それまでブルジョア階級の人々に仕えていた女性料理人がレストランを開くこともありました。その1人が女性で初めて世界的グルメ雑誌の星を獲得し、「リヨンの母」と呼ばれたマダム・ブラジエ。そして彼女の弟子の1人が、後に「リヨンの英雄」と呼ばれるスターシェフ、ポール・ボキューズでした。リヨンにある「ポール・ボキューズ本店」でのフルコースディナーとサービスは、旅の思い出の1ページとなることでしょう。
「美食の国」といわれるベルギー。国土は広くないものの、海に面し酪農や野菜の栽培が盛んで食材が豊富。歴史的にフランスの影響を受けており、煮込みなど伝統的なフランス料理がおいしいと評判です。首都ブリュッセルは、人口比で星付きレストランの数がヨーロッパで一番多い都市ともいわれ、ファストフードのお店はあまり見かけません。北海に面した北部は海の幸を、南部アルデンヌ地方は山の幸を活かした料理が多い傾向にあります。
ぜひ北海に面した北部の街で、シーズンを迎えた「ムール貝のワイン蒸し」を1度は味わっていただきたいところです。一方、趣ある古城めぐりがおすすめの南部のアルデンヌの森では、やはり山の幸を味わいたいもの。世界一小さな街といわれるデュルビュイの「ル・サングリエ・デザルデンヌ」(いのしし亭)は、日本でも知られた美食レストラン兼ホテル。ここに滞在しながら、フォアグラなど日本人にも馴染みのある食材を使ったお料理を味わうのも楽しみです。
ベルギーでは、サラダ、メイン料理、添え物といった1食分が1皿でサービスされることも珍しくありません。また、欠かせないのがデザート。人気のダムブランシェ(チョコかけアイスクリーム)もぜひお試しください。
秋の日射しを浴びて金色に輝くぶどう畑が広がるシャンパーニュ地方に出かけて、シャンパンセラーやチーズ工房をめぐり、パリでチョコレートをテーマに催物などを楽しんでみる……。この時期ならではのフランスの優雅な味覚の旅はいかがでしょう。
シャンパーニュ地方でぜひ訪れたいのがシャンパンで潤う街エペルネー。モエ・エ・シャンドン社をはじめ、名だたるシャンパンメーカーが集まっています。シャンパンセラーを訪れて、見学と試飲を楽しむこともできます。「オステルリー ブリケトリー&スパ シャンパン」は、この地方の隠れ家的宿。自慢のお料理を楽しみつつ寛いだ時間を過ごせます。
パリでは、10月29日からポルト・ド・ベルサイユ見本市会場にて「サロン・デュ・ショコラ」(チョコレートの祭典)がはじまります。ぜひ足を運んでみましょう。日本でもチョコレートのイベントは人気がありますが、この会場では、日本未上陸のパティシエの作品や、世界最新のチョコレート情報を、いち早く知ることができます。