ヨーロッパの南西端に位置するイベリア半島のスペイン・ポルトガル、エーゲ海に浮かぶギリシャ。文明が交差する濃厚な歴史が流れ、訪れるべき街や見どころが点在する訪問先です。日射しが和らぎ、日常を取り戻した秋はまさにベストシーズン。異国情緒たっぷりの南ヨーロッパへ出かけませんか。
北アフリカの砂漠の民が、イベリア半島にやってきたのは8世紀頃のことでした。それから約700年以上もの長きにわたり、この地はイスラム文化の影響を受けてきました。やがて北に追いやられていたキリスト教徒たちは、レコンキスタ(国土回復運動)により、徐々にイスラム勢力を南に追いやり、領土を回復していきます。イスラムの征服者が、異文化と信仰の自由に寛容だったこともあり、スペインをめぐれば、各地でキリスト教文化とイスラム文化が織り成した歴史が放つ、華麗な輝きに出あえます。
中部を流れるタホ河に囲まれた、小高い丘に築かれた古都トレド。およそ400年を経て、キリスト教徒の手に戻った街の中心に建てられたのが、スペイン・カトリックの総本山の大聖堂。内部には多くの金を用いた豪華絢爛な装飾が施され、なかでも採光窓「エル・トランスパレンテ」は一見の価値があります。キリスト教、イスラム教、そしてユダヤ教徒が暮らしたこの街のお土産には、シリアのダマスカスから伝わった伝統工芸品ダマスキナード(象嵌細工)などもおすすめです。
スペイン南部アンダルシア地方のコルドバは、約280年間にわたりイスラム教徒による後ウマイヤ朝の都でした。最盛期の繁栄ぶりを伝えるのが大モスクのメスキータ。「円柱の森」と呼ばれる寺院内部は、大理石と赤れんがを交互に組み合わせた馬蹄形アーチが続き、見渡すと目がくらむよう。奥にはアラベスク模様が施されたミフラーブ(メッカの方向を示すくぼみ)があります。再びキリスト教徒の手に戻ったあとも、その見事さに破壊されることなく残りました。
13世紀半ばになるとイベリア半島のイスラム勢力の領土はナスル朝グラナダ王国のみとなりました。その栄華を伝えるのがアルハンブラ宮殿です。城内には貴族を中心に多くの人が暮らしていました。今も涼しげな水音が聞こえる王の居住空間だった場所では、随所にあしらわれたアラビア文字や、植物をモチーフにした優雅な装飾に魅了されます。他国からの訪問者が通された「大使の間」の装飾なども必見。また、夏の離宮ヘネラリフェの庭で、今も小さなアーチを描く噴水は、この地の高低差を利用してつくられたものです。
ユーラシア大陸の最西端に位置するポルトガル。初代ポルトガル国王となったアフォンソ・エンリケスは、北部にある小さな街ギマランイスで誕生しました。小高い丘にある旧市街の入り口の壁には、「ここにポルトガル誕生す」と記されています。このギマランイスから、一筆書きに南下し、大航海時代に沸いた首都リスボンへと旅することで、ポルトガルの歴史も辿ることができます。
ギマランイスの南に、ポートワインで知られる港街ポルトがあります。もともと港町だったポルトはローマ時代には「カレ」、やがて「カレの港」を意味する「ポルトゥ・カレ」と呼ばれるようになります。この街はポルトガルの国名発祥の地。アフォンソ・エンリケスの父は、この地をイスラム教徒から奪回し、治めたフランス貴族のポルトゥ・カレ伯爵です。
次に出あうのが中世の街並みが残る古都コインブラ。ポルトガル最古の大学がある街です。この街はポルトガルでのレコンキスタの最前線でした。コインブラを拠点にレコンキスタを進めたアフォンソ・エンリケスは、ポルトガル国王となり、この街を都と定めました。そして1249年、ポルトガルはスペインに先駆けてレコンキスタを終了。その後、都を港町リスボンへ移します。
15世紀、ポルトガルの大航海時代を開いたのは航海王子と呼ばれるエンリケでした。彼がアフリカ西海岸南下を指示し、インド航路への道筋を示します。エンリケ亡きあとも、スペインと競いつつ広げたアジアや南米との交易ルートにより、ポルトガルは莫大な富を得ることになります。今もリスボンの名所として知られる壮麗な装飾が施されたジェロニモス修道院や、ベレンの塔などが、当時の繁栄ぶりを伝えています。
エーゲ海に抱かれた国ギリシャ。ヨーロッパの根底を成すギリシャ文明発祥の地です。アクロポリスなど、 この文明が再び注目されるようになったのはルネッサンス期。9世紀以降、ヨーロッパで古代ギリシャのさまざまな価値が再評価されたからでした。こうしたギリシャならではの歴史的な見どころに加え、リゾートを楽しむ人々が訪れます。観光客が減り、日射しが和らぐ9月後半は、街歩きや遺跡めぐりにも適した季節。ギリシャならではの魅力を存分に味わうことができます。
観光の中心となるのはサントリーニ島。島の頂上に雪が積もったかのように見える白い街並みと青いドームを頂く教会の光景は、1度は目にしたいもの。そして、「エーゲ海に沈む夕日」もまた、この島を訪れる誰もが見たいと思う光景でしょう。しかし島内で、ゆっくりとその光景を楽しめる場所は、それほど多くはありません。夕景で有名な街イアには、夕刻ともなると眺めのよい道に人が集まり、どこも大変混み合います。刻々と表情を変えるイアの夕景を満喫するなら、やはり眺望自慢のレストランに席を取るのがおすすめです。誰もが見たいと望む、夕暮れのエーゲ海を眺めながらゆっくり楽しむお食事は、とびきり贅沢な思い出になります。
サントリーニ島での滞在を満喫したら、アテネに向かう前に、もう1カ所、ミコノス島に滞在してみてはいかがでしょう。サントリーニ島に比べると、何となくゆったりした雰囲気が漂うこの島では、風車があるカト・ミリ丘やカフェが並ぶ街の散策などをのんびりと楽しむのがおすすめ。散歩の途中、島の人気者のペリカンが人目を気にせず歩く姿を見かけるかもしれません。ビーチにも近く、心地の良いホテルに滞在して、時間を気にすることなく過ごしてみましょう。滞在中は、アポロンとアルテミス誕生の島デロス島にでかけてみるも良いですし、静かなビーチで何もしないで過ごした時間も、意外に思い出になるものです。