映画にとってロケーションは「役者の1人」ともいわれるほど重要な要素。物語に奥行きを持たせるだけでなく、時に登場人物の心情を代弁する役割も果たします。 そんな存在感たっぷりの場所が数多くあるのがヨーロッパ。そこで2026年催行予定のコースのなかから、物語を彩り名演技を支えた街々をピックアップ。名画と呼ばれる作品とともに紹介します。
スペイン南部の街、セビージャ。エキゾチックな華やぎの裏に、ある種の影を感じさせるこの街は、古くから作家たちの創作意欲を駆り立ててきました。『セビリアの理髪師』『フィガロの結婚』『ドン・ジョバンニ』といった有名なオペラはこの街が舞台。プロスペル・メリメが小説『カルメン』を書いたのも、この街を訪れ、刺激を受けたのがきっかけでした。
妖艶で奔放なカルメンに心を奪われた衛兵のドン・ホセが、愛と嫉妬の末に彼女を手にかける―そんな悲劇を描いたメリメの小説は、後に人気オペラとなったほか、世界各国で映画化されています。何者にも惑わされず、自由に生きるカルメン。多くの作品を生んだのは、その圧倒的な存在感ゆえでしょう。そして、そんなカルメンが恋に情熱を燃やすにふさわしい街、それこそがセビージャなのです。
南スペインの旅では、この街に連泊し、『カルメン』の舞台となった旧王立タバコ工場(現セビージャ大学本部)を含め、街の各所をめぐります。世界無形文化遺産のフラメンコの本場としても知られるセビージャ。タブラオでの舞台鑑賞のほか、鮮やかな衣装で歌い踊る「春祭り」の参加も、この伝統文化や街の熱気にふれる貴重な機会となるはずです。
アンダルシア地方の魅力が凝縮されたセビージャの街
フラメンコの本場でもあるセビージャ。タブラオで情熱的な舞台を堪能
物語の舞台となった旧王立タバコ工場。1770年完成の建物は現在、セビージャ大学の本部となっている
ヴェネツィアに観光にやってきたアメリカ人のジェーンが、骨董品店の主人、レナートと知り合い、戸惑いながらも恋に落ちる。そんなひと夏の大人の恋物語を、キャサリン・ヘップバーンの主演で描いた映画『旅情』。恋愛の機微とともに本作の見どころとなっているのが、舞台となったヴェネツィアの風景です。
劇中、何度も登場するのは1720年創業の「カフェ・フローリアン」。テラスから望むサンマルコ寺院やサンマルコ広場のほか、ブラーノ島、サンタルチア駅など、見どころをたっぷり描いた本作は、ヴェネツィア人気の火付け役となりました。
『旅情』は「水の都」ヴェネツィアの名を広めるきっかけに
サンマルコ広場は物語の2人が出あう大事な場所
「カフェ・フローリアン」は現存するヴェネツィア最古のカフェ
この魅惑の街を堪能するなら、滞在型の旅でしょう。5連泊する今回の旅では、通常のツアーでは訪れる機会の少ない周辺の島々を水上タクシーで観光。映画で2人が訪れたブラーノ島で名物の手編みレースを物色したり、ムラーノ島でヴェネツィアン・グラスの工房を訪ねたりと、楽しみはいろいろです。画家カナレットも描いた歴史ある「センサの祭り」も楽しみます。伝統のカロリーナ船を貸切り、ヴェネツィア本島からリド島へ。自由行動の日には、ヒロイン同様、カフェで広場を眺めるのも一興でしょう。映画で描かれた旅情を、たっぷりと味わってください。
ビザンチン建築を代表するサンマルコ寺院はかつてのヴェネツィアの富の象徴
ブラーノ島に並ぶカラフルな家々は、島の漁師たちが自宅を見分けるために色を変えたのがはじまりといわれる
2024年、惜しくも天に召された名優、アラン・ドロン。「世紀の2枚目」といわれ、日本でも長らく2枚目の代名詞的存在として人気を得てきました。そんな彼を世界的スターにした作品が、1960年公開の映画『太陽がいっぱい』です。サスペンス小説を原作とする本作で彼が演じたのは、金持ちの友人、フィリップの父に頼まれ、彼を連れ戻しにナポリを訪れた貧しい青年トム。妬みと怒りを爆発させたトムがフィリップを殺し、彼に成りすます計画を着々と進める、という物語のドキドキ感もさることながら、アラン・ドロンその人に魅了された人も少なくなかったのではないでしょうか。白いスーツで街を颯爽と歩く姿も、日に焼けた素肌を惜しげなく晒してヨットを操る姿も、観る者を魅了する圧倒的な輝きを放っていました。
南海岸観光の起点は地中海に面した美しい街ナポリ
そんな物語の舞台となるのは、陽光あふれるイタリア南海岸です。作品では、モンジベロという架空の地として描かれていますが、スクリーンに広がるのは、まさにアマルフィ海岸沿いに連なるリゾートの世界。完璧な成りすまし計画を完遂した満足感でトムがつぶやく「太陽がいっぱいだ」の言葉どおり、まばゆい陽光に満ちた風景でした。世紀の2枚目が躍動した南イタリア。あの光輝く世界への旅はいかがでしょうか。
アマルフィ海岸沿いはまさに映画で描かれたリゾートの趣。ツアーではボート遊覧で海上からも景観を楽しむ
「地中海の宝石」とも呼ばれるカプリ島
カプリ島では3連泊して「青の洞窟」入場にトライ。島での街歩きも楽しい
ヨーロッパ、アフリカ、中東の中間に浮かぶ地中海の島、シチリア島。古くから交通の要衝として栄える一方、さまざまな民族の支配下に置かれ、歴史に翻弄されてきたこの島は、イタリアのなかでも独特の存在感を放ち、多くの映画の舞台ともなってきました。1972年からシリーズで描かれた映画『ゴッドファーザー』もその1つ。シリーズ第3作のクライマックスシーンに登場するパレルモのマッシモ劇場は、ファンの聖地となっています。
映画『ゴッドファーザー』が撮影されたパレルモ。ツアーではこの街に3連泊
そのほか、さまざまな作品があるなか、この島を舞台にした映画として筆頭に挙げられるのはやはり、田舎の小さな映画館を舞台に映写技師アルフレードと少年トトの友情と別れを描いた『ニューシネマパラダイス』でしょう。本作の舞台はジャンカルドという架空の村。主なロケ地はパラッツォ・アドリアーノという小さな村ですが、夏の海辺のシーンなどは、ティレニア海に面した静かなリゾート、チェファルーで撮影されました。成長したトトが、駅で家族やアルフレードに見送られてローマへと旅立つシーンは、エンニオ・モリコーネの情緒あふれる音楽も相まって、切なさに満ちた名シーンとして語り継がれています。
『ゴッドファーザーⅢ』に登場するマッシモ劇場。ツアーでは下車観光で見学
人気のリゾート地ながら、のんびりとした雰囲気が漂うチェファルー
かつて小さな漁村だったチェファルー。背後の岩山が印象的