[ 注目の宿を訪ねて ]

~三越伊勢丹ニッコウトラベル×ONESTORY~

200年の時を超えて、奈良井宿の誇り

地元と紡ぐ物語がはじまる

「BYAKU Narai」
(ビャクナライ)の全貌

企画=古澤雅史 文=古澤雅史
  • イメージ イメージ かつての宿場町も、今は日中に訪れる人が多い観光地。 江戸~明治期の町屋が並ぶ、朝夕の静かな奈良井宿も風情があります

地域に古より宿る百の物語を味わう― 単なる宿ではなく、宿泊、食事、体験をとおして、地域を知ってもらう、そんな想いが込められた名前だといいます。400年もの歴史を持ち、江戸~明治期の面影を色濃く残す奈良井宿で、夏真っ盛りの8月4日、開業を迎えました。奈良井宿に刻まれる新たな1ページ。今号では、完成したばかりの「BYAKU Narai」の全貌に迫ります。

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日本遺産、奈良井宿に宿を建設

ヨーロッパを旅していると、中世にタイムスリップしたような街に出あうことがあります。それに比べると、日本には歴史を感じさせる神社仏閣などの建物は数多あっても、町全体が古を醸し出すところは多くないのかもしれません。中山道の真んなかに位置する奈良井宿は、江戸~明治期の町並みをそのまま残す貴重な町です。

この町にBYAKUをつくることを決めたのも、「あまりにも歴史をそのままに残す町であったから」というのが理由だそうです。6月に奈良井宿をはじめて訪れた時はまだブルーシートで覆われ、工事中であることが一目瞭然でしたが、完成後に訪れた時には気づかずにその前を通り過ぎてしまいました。外観にはメスを入れず、奈良井宿のほかの建物と同化していたためです。

奈良井宿は野外ミュージアムではありません。そこには人々の生活があり、歴史遺産の宿命である観光と生活が共存しています。そのため、ここに新しくつくられる宿も奇をてらうわけにはいかず、周囲の景観との調和に配慮したものとなっています。

  • イメージ イメージ 8月に訪れた奈良井宿は多くの観光客で賑わっていました
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「BYAKU Narai」のコンセプト

BYAKUは単なる宿泊施設ではありません。

「LOCAL EXPERIENCE」―つまり、奈良井宿でしかできない体験をしっかりと打ち出しています。

四方を木曽の山々に囲まれ、ゆったりとした時間が流れるこの町で、歴史が交錯する時間を過ごすことができる工夫が凝らされています。

元は酒造と曲物職人の古民家であった2軒の建物を、宿として再生させ、それぞれ8部屋、4部屋の計12部屋を1つのホテルとして運営しています。

元の建物の間取りをそのままに改装していますので、客室のつくりは必然的にすべて異なります。奈良井宿のメインストリートに面する客室、反対の中庭を望む客室、五右衛門風呂のような露天風呂が設置される客室、かつての家財蔵をメゾネット式に改装した客室などさまざま。共通していえるのはどの客室も歴史の重みがずっしりと感じられるということ。古くからの欄間や襖絵を取り入れ、木曽漆器にもふれることができます。

  • イメージ イメージ 入り口には、創業1793年(寛政5年)の「旧杉野森酒造」の看板が
  • イメージ 客室の1例。元の間取りをそのままに改装
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多くの人が関わる「BYAKU」の食

かつて木曽五大銘酒と呼ばれていたものの、2012年から休眠状態であった日本一標高の高い蔵元「杉の森酒造」を再生させ、京都伏見の酒造から杜氏を招聘し、新たな酒「Narai」をつくりました。そしてその酒づくりの主たる作業が行われていた歴史ある場所を利用したレストランは「嵓kura」と名付けられ、「食す」ことだけを目的とせず、土地についての新たな発見や驚きを「感じてもらう」空間として、生まれ変わっています。このレストラン内に設けられた窓からは、酒づくりの工程をご覧いただける設計になっています。

  • イメージ イメージ レストラン「嵓 kura」は元々酒蔵だった空間を再生。奥のガラスの向こうでは酒づくりも復活

レストランの監修は、プレミアムな野外レストラン「DINING OUT」の総合プロデューサーであるONESTORYの大類知樹さん。料理メニューの監修は、2019年に世界のベストレストランで11位、日本勢トップとなった東京の日本料理店「傳(でん)」の長谷川在佑さんが担当しています。上質なレストランは世界中に数あれど、奈良井宿でしか食べられない料理を提供しており、季節や文化を継承しながら、都度メニューを練り上げていくとのこと。この地域ならではの漆器を使い、地元の食材を徹底的に使用するのがBYAKU流です。

  • イメージ 「傳」でお馴染みの土鍋ご飯は塩尻のお米を使用して「嵓 kura」でも提供予定
  • イメージ 信濃川の源流である山の湧き水を引き込んだ 温浴施設「山泉SAN-SEN」

先日、「嵓 kura」の料理長となった、地元塩尻の素材を知り尽くす友森隆司さんとお会いする機会がありました。

「おいしい野菜をおいしく食べる方法があるんだよ、と伝えるのが料理人の役目」と語る友森さんは、もともと塩尻の町なかでフランス料理店を営んでいました。塩尻産野菜を20種類は必ず揃えていたという友森さんの食材へのこだわりはかなりのもので、その時いただいた「今朝取ってきた」という新鮮な野菜を使った料理の味は、忘れられません。

長谷川さんと友森さんのコンビが、これから「嵓kura」の味となっていくのでしょう。

  • イメージ イメージ 長谷川シェフ(右)と友森シェフ。地元の食材を探しに
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進化する「BYAKU」

BYAKUの旅ははじまったばかりです。8月4日にオープンした客室は、まだ10室のみ。これから秋に向けて残りの2室がオープンします。さらに、当時味噌蔵であった建物を改修したバーもオープン。BYAKU内の酒造と提携し、日本一標高が高い蔵元で製造された鮮度の高い日本酒を味わえるバーとして、地域との密着を目指していきます。

バーでグラスを傾ける時、奈良井宿の地元の人たちからその土地の話を聞かせてもらう―そんな瞬間こそ旅の醍醐味であり、それこそがBYAKUの目指しているものかもしれません。

「百年の家の下に、百人のつながりがある。そのつながりが、何百人に広がっていく。百(HYAKU)は重なっていくことで何百(BYAKU)」にもなる」

奈良井の歴史・文化の発信基地となろうとしているBYAKUの想いが伝わってきました。

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長谷川シェフから皆さまへ
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  • イメージ 皆さまのお越しをお待ちしています!

テクノロジーや技術が急速に進化している昨今、奈良井宿は、現代において忘れ去られていた“正しい時間”が流れている町だと思います。それは、人が生きる上で大切な何かを発見できる機会にもなると感じています。ゆえに、「嵓 kura」では、この町が生きてきた自然のものやことを自然なかたちで表現し、ここで食べるからこそ意義のあるものを提供したいと思っています。文化、歴史を学び、土地の味、家庭の味、調理法などを地域の方々にご教授いただきながら、料理に活かしていければと考えています。