[ WEB限定特集② ]

飛騨と富山にて新進気鋭の2人のシェフが
織り成すローカルガストロノミー

こだわりの地から生まれる
信念のひと皿

企画=江頭啓太郎 文=槙原有希
  • イメージ イメージ 「Cuisine régionale L'évo(レヴォ)」の谷口英司シェフ(左)と「オーベルジュ玄珠」の
    早川直樹シェフ(右)。早川シェフが「レヴォ」を訪れた際に撮影した記念の1枚
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2人のシェフの縁から生まれた旅

いくつもの物語が詰まっているひと皿を味わい、シェフの哲学を体感する旅に出かけませんか。今回ご案内するコースは、日本のローカルガストロノミーを語る上で欠かせない2つのオーベルジュを訪ねます。富山県利賀村の「Cuisine régionale L'évo(レヴォ)」と岐阜県飛騨の「オーベルジュ玄珠」。この2つのオーベルジュはどちらも2020年にそれぞれの地で開業しました。「レヴォ」の谷口英司シェフと「オーベルジュ玄珠」の早川直樹シェフは、真の地産地消と地域の魅力発信を志す者同士として共感し、お互いのオーベルジュを訪問し合う仲間。2人の縁からこの旅は生まれました。それぞれの個性が形となった、こだわりのひと皿の物語の一端をご紹介しましょう。

「オーベルジュ玄珠」は、豊かな森と清らかな川に恵まれた飛騨清見地方ならではの食材を使った料理を味わえます。人間の体と土地は切り離すことはできず、その土地で旬に採れたものを味わうことが命を育む、という「身土不二(しんどふじ)」の郷土料理です。なかでも「焼きスッポン」は、伊賀焼を代表する窯元「土楽窯」の7代当主、福森雅武さんからの指導を受けて生まれたひと皿。かつて福森さんが白洲次郎・正子夫妻へ振る舞ったといういわれのある料理です。早川シェフは、この料理に込めた想いを語ってくれました。

「ご馳走とは、本来は調理場を走り回ってお出しする品ではなく、遠路はるばる訪ねてくださった方に、一期一会の精神で提供させていただくものです。人も食材もその時が最初で最後の出あいと考え、その一瞬にすべてをささげるという覚悟で料理をしています。「焼きスッポン」は何度も試食を重ね、今の味まで高めました。料理人として大事なことは、飛騨という地で提供できる最良の食材を探し回ることです。使っているスッポンは、温泉水で育てられたすばらしいもので、奥飛騨まで探しに行き見つけました。」

  • イメージ イメージ 早川シェフが一期一会の精神でつくる「オーベルジュ玄珠」の料理
  • イメージ 木のぬくもりを活かし、シンプルモダンなダイニング
  • イメージ 美濃和紙の障子や灯など飛騨の匠を基本とした客室(一例)
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進化し続ける地産地消の世界へ

「レヴォ」の谷口シェフがテーマに掲げるのは「富山の奥懐・利賀村から発信する地方料理の進化」。こだわり抜いた素材と自由な発想を組み合わせ、富山でしかできない前衛的地方料理を生み出しています。

「L'évo鶏」は、レストラン名を冠した谷口シェフのスペシャリテ(フランス語で“最も得意とする料理”)です。富山市の里山で持続可能な有畜複合循環型農業を運営する「土遊野」と連携し、地酒「満寿泉」の酒粕などの飼料から育て上げた専用鶏が食材となっています。一見するとシンプルな料理に見えるこのひと皿にこそ、「レヴォ」を象徴するこだわりが詰まっています。鶏モモ肉とムネ肉、熊の脂、有機もち米を鶏の皮で包んだものを焼き上げ、表面に纏っているのは薪の香り。添えられたマスタードソースは、モモとムネ肉以外の部位から取ったブイヨンを合わせたもので、味のアクセントに。香ばしい皮を口に入れると、ジューシーな中身とともに複雑な味わいが広がります。堪能していただきたいもう1品は、金色の輝きを放つ大門(おおかど)素麺。使用している半生麺は、絶妙なコシのあるもちもちとした食感と旨味が特徴です。ヤギチーズとフキノトウという個性的な2つの風味のスープは、衝撃と呼ぶに相応しい食の体験となることでしょう。

  • イメージ イメージ 谷口シェフのこだわりが詰まっている「L'évo鶏」
  • イメージ 落ち着いた空間が広がるダイニングで食事を
  • イメージ 地元の生産者は谷口シェフの大切なパートナー