[ 国内特集② ]
1度はと想い焦がれた
「カシオペア」で、
星空に抱かれながら北国へ。
企画=関尚美
文=井上智之
「カシオペア」の名は、郷愁とともに、今もほろ苦い思い出を私に蘇らせる。それは子どもたちが小学生の時。札幌への家族帰省の顛末にさかのぼる。
若い頃から、帰省は飛行機だった。上野から青森まで半日以上も列車に揺られ、連絡船で約4時間かけて津軽海峡を渡り、さらに列車で函館から札幌へという煩わしい道程はもってのほかだったのだ。大学時代は「スカイメイト」の利用で航空券は半額だったし、コピーライターとして多忙を極めていた独身時代も、飛行機の“時短帰省”しか考えられなかった。
結婚し、やがて子どもが生まれた。当時は、すでに青函トンネルが開通。ブルートレイン「北斗星」も運行していたが、個室寝台も窮屈そうで、子ども連れの長旅を考えると帰省は飛行機になっていた。
両親も孫との再会を待ち望んでいるだろうし、久し振りに帰省しようか。そんな時、目にしたのが「カシオペア」運行のニュースだった。「これは、すごいな! ちょっと贅沢だけれど、数年に1度のことだし、飛行機だって小学生は大人料金だし。よし、決めた!」。私は家族に宣言していた。「今度の夏休みは、カッコいい寝台特急で札幌に帰ろう! 部屋はホテルみたいにきれいだし、レストランも展望車もあるぞ!」。
勇んで旅行会社に向かった私は愕然とした。自分の認識の甘さを呪った。「カシオペア」の寝台券はとっくに売り切れたというではないか。期待でいっぱいに膨らんだ家族帰郷の想いは、風船のように儚くしぼんだ。
あれから20年たった今、「カシオペア」が復活しているという。子どもは独り立ちした。いつも玄関の外に出て帰りを待っていた親父は、北の大地に眠っている。「なあ、2人で乗ってみないか、今度こそ『カシオペア』に」…… 雑誌を眺める妻に私は呼びかけている。
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旅人の想いを乗せ、夜を徹して疾駆する「カシオペア」
伝説の寝台特急
「カシオペア」を貸切りで
ノスタルジックな旅情とともに、
青森・函館を訪ねゆく
蘇った「カシオペア紀行」でかけがえのない旅の思い出を
遠くへ行きたい。できるなら、ゆったりと夜行列車で行く寛ぎの旅がいい。そんな旅人のロマンを満たす寝台特急として1999年に運行を開始したのが、上野~札幌を直行する「カシオペア」でした。「ななつ星」「四季島」「瑞風」などの豪華列車が注目される今にあって、その先鞭となったのは「カシオペア」にほかならないでしょう。
JR初の全車両2階建て、全室2人用の個室寝台、フランス料理のディナーや懐石御膳を楽しめるダイニングカー、ワイドな展望窓を備えたラウンジカー……。当時の常識を超えた設備とおもてなしに対する反響は凄まじく、乗車1カ月前の発売開始後、たちまちに寝台券が完売するほどでした。
そんな「カシオペア」も、北海道新幹線の開通とともに2016年3月、定期運航を終了。しかし、多くのファンの声に応えて、団体専用臨時列車「カシオペア紀行」として運転を再開しました。
ご案内するのは、この伝説の寝台特急を貸切っての旅。青森に到着直後の共通観光とともに、思い思いに楽しめる5つのコースをご用意しました。またとない体験を、皆さまの旅の遍歴に添えてはいかがでしょうか。
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ノスタルジックな雰囲気とともに北国へと快走する「カシオペア」(提供:JR東日本)
今もなお輝きを放つ姿と 落ち着いた寛ぎ空間
出発は駅舎もレトロな“北の玄関口”、上野駅。心躍らせながらホームに向かうと、シルバーメタリックの車体に五本のストライプを彩った「カシオペア紀行」が、日暮れを前に佇んでいます。
列車は、寝台車10両とダイニングカー、ラウンジカーの全12両編成です。当時の人気を決定づけたラグジュアリーな個室寝台は3タイプ。最上グレードの「カシオペアスイート」は、3面ガラスの窓も開放的な一階構造の展望タイプと、1階が寝室・2階がリビングのメゾネットタイプが。「カシオペアデラックス」は、広い空間と高い天井が快適な一階構造です。そして4~11号車には、リビング兼寝室タイプの「カシオペアツイン」が。付添いの方のためのベッドも備えた、バリアフリーの部屋も用意されています。
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ラウンジカーで移りゆく景色をゆったりと慈しむ(提供:JR東日本)
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ダイニングカーで優雅な食事のひと時を(提供:JR東日本)
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洗練された車体デザインに旅心も高まる(提供:JR東日本)
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時を超えたおもてなしに 和みながら、旅情に浸る
当時の先端を走っていたおもてなしも、今に再現されています。夕食はダイニングカーのレストラン「グランシャリオ」で、フルコースのフランス料理や丹誠を込めた懐石御膳を。ドーム型の天井やグレーが基調のエレガントな雰囲気に包まれながら、車中とは思えないゆるやかに流れる時間をお過ごしください。お部屋で食事を楽しみたい皆さまには、和風のお重「カシオペアスペシャル弁当」をご用意しています。グラスを傾けながら寛ぐ、パブタイムも特別なひと時になるでしょう。
長距離を駆ける夜行列車の醍醐味は、夕暮れから夜へと時間ごとに移りゆく景色や、町の佇まいをのんびり眺めながら旅路を満喫できること。そんな想いを叶えるのが、見晴らしを配慮して、ハイデッカー(高床)構造を採用したラウンジカーです。旅先に想像をめぐらせながら夜空を仰ぎ見ると、カシオペヤ座が皆さまの旅を見守るように煌めいているかもしれません。
移動手段を超えて、列車そのものが思い出となる旅を満喫してください。
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懐石御膳も車中とは思えない豪華さ(提供:JR東日本)
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フルコースのフランス料理に心躍る(提供:JR東日本)
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お部屋では「カシオペアスペシャル弁当」を(提供:JR東日本)
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1度はと想い焦がれた 「カシオペア」で、 星空に抱かれながら北国へ。
それぞれの思い出を紡ぐ、全5コース
またとない
「カシオペア紀行」体験を
この機会に
ねぶた祭りの熱気にふれ 縄文時代に想いを馳せる
カタコト鳴る音で、はっと目を覚ますと右手には朝焼けに染まる大きな空が。午前8時32分、青森駅に到着です。この旅では共通観光とともに、それぞれに趣向を凝らした5つのコースをご用意しています。
共通観光では、「ねぶたの家ワ・ラッセ」で、青森が誇る一大イベントの魅力をたっぷりと。館内で目のあたりにするねぶたは、豪華絢爛にして迫力満点。ねぶた師・竹浪比呂央さんに歴史・由来や制作過程などを解説いただくほどに、夏の夜に繰り広げられる祭りの熱気が伝わってきそうです。
「三内丸山(さんないまるやま)遺跡」の見学にも心躍ります。数千年前に存在していたとされる縄文集落の跡からは、長さ10メートル以上の住居跡や、幅約12メートル・長さ約4,200メートルにわたり海に向かって延びる道路跡、食料の貯蔵穴などが次々に発掘されました。土器、石器や土偶などの出土遺物も、段ボールで数万箱におよんだそうです。その壮大さには、言葉を失うばかり。17の遺跡で構成する「北海道・北東北の縄文遺跡群」の1つとして、世界遺産に登録されたのも頷けるでしょう。
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多彩な出土遺物に驚嘆する「三内丸山遺跡」
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伝統継承に情熱を注ぐねぶた師・竹浪比呂央さん
津軽の地を、思い思いに 訪ねる歓び
ねぶたと縄文文化にふれた後には、個別コースでそれぞれの思い出を刻んでいきましょう。
津軽の魅力を満喫したい皆さまには、3つのコースをご用意。まずは、八甲田連峰の大自然に抱かれながらゆったりと寛ぐ旅です。宿泊先は、こだわりを尽くしたログ木造の佇まいに圧倒される「八甲田ホテル」。温泉大浴場にゆったりと浸かり、シャンデリアも煌びやかなダイニングで地産食材を活かしたお食事をどうぞ。翌日は、八甲田ロープウェーで空中散歩を。3月中旬とはいえまだ白雪を纏った八甲田の山並みや、遥か先までダイナミックに広がる眺望に息を呑むことでしょう。
続いてのコースでは「HOTEL Jogakura」に宿泊後、奥津軽の冬の名物・津軽鉄道の「ストーブ列車」に乗車します。津軽弁のガイドのもと、ダルマストーブで暖を取りながら哀愁漂う奥津軽の景色をご堪能ください。
浅虫温泉の「南部屋・海扇閣」に宿泊し、津軽三味線の熱演を堪能するコースも見逃せません。翌日は、世界遺産「是川遺跡」の出土品などが展示された「是川縄文館」を見学。「八食センター」では、日本有数の漁獲量を誇る八戸ならではの魚介類の鮮度と品揃えに目を瞠ります。
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「八甲田ホテル」では、木のぬくもりに包まれながらフランス料理を
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激しくも哀切漂う津軽三味線の演奏を堪能
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レトロな「ストーブ列車」に乗って体も心も温まる
フェリーで津軽海峡を渡り 函館の町を楽しむコースも
少し足を延ばして、3日目に北海道に渡るコースもご用意しました。大間でまぐろ料理に舌鼓を打った後、「津軽海峡フェリー」で函館へ。宿泊先は、湯の川温泉の「望楼NOGUCHI函館」です。350余年の歴史を刻む名湯にのんびり浸かりながら、日常の疲れを癒してはいかがでしょう。
翌日は、活気あふれる「函館朝市」を散策。青函連絡船・摩周丸の船体をそのまま利用した博物館も見学します。本州と北海道の架け橋として、約80年も運航し続けた連絡船の歴史を顧みるほどに、ノスタルジーを掻き立てられます。
また、忙しいなかにあっても「カシオペア紀行」体験を、と願う皆さまには、共通観光を楽しんでから飛行機で帰京するコースもご用意しています。復活となった「カシオペア紀行」で、北の都をめぐる旅…… 春に誘われ目覚めた旅心を、たっぷりと満たしてくれるでしょう。
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「津軽海峡フェリー」で大間港から函館港へ
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北の名湯・湯の川温泉で、旅を追想しながらゆったりと