[ 海外特集① ]

はじめて出あうイタリアがここに

アルプスに抱かれた
ヴァッレ・ダオスタ

その魅力を現地から

企画=坂口智一/長谷川賢 文=吉田千尋
  • イメージ イメージ 標高約1,980メートルにある幻想的なブルー湖に、マッターホルンが映って揺らめく
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イタリアで最も人が少ない 豊かで贅沢なリゾート地

イタリアの人々が「モンテ・チェルヴィーノ」といえば、それはアルプスの名峰マッターホルンのこと。スイスから見ると鋭い剣先のようなシルエットを持つこの山が、北イタリアから見るとやや幅広で、重厚な雰囲気を放ちます。

その雄大な姿にどこよりも近いのが、イタリアで最も人口が少ないヴァッレ・ダオスタ州。北はアルプス、南はグラン・パラディーゾと4,000メートル級の山々に抱かれた、贅沢なリゾートです。

食事やワインもおいしいヴァッレ・ダオスタの魅力について、近郊に住むマリーニあゆみさん、佐藤百香合さんに伺いました。

  • イメージ マリーニあゆみさん イタリアソムリエ協会認定ソムリエ。旅とワインのブログでイタリアワインや旅の様子を発信中。https://asmwine.com/
  • イメージ 佐藤百香合さん イタリアで最も影響力のあるワインガイド『ヴィニ・ディ・イタリア』における、日本人初の審査員ソムリエ。
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ローマ帝国初代皇帝が 築きあげた美しき古都

お2人が住むトリノからヴァッレ・ダオスタの州都アオスタまでは、高速道路を使って1時間30分ほど。いくつもの古城が見えてくると、「アオスタに来たな」と感じるそうです。スイスとフランスに国境を接するこの街はアルプス越えの重要な軍事拠点で、11世紀頃から数多くの要塞がつくられました。次々と現れる荘厳な古城の姿に、想いを馳せるひと時です。

小さな街のなかで、いくつもの古代ローマ遺跡に出あえるのも、アオスタの魅力。実はこの街をつくったのは、ローマ帝国の初代皇帝アウグストゥスです。城壁に囲まれた旧市街を歩くと、2,000年以上の時を超えた建造物が今も数多く残ります。

「見あげるようなファサードが残る円形劇場があって、そのすぐ近くにはアーチが二重になったプレトリア門があります。クリプトポルティコという地下回廊など、ほかにも見どころがたくさんありますよ」と、マリーニさん。大自然と遺跡が見事に共演するアオスタが、“アルプスのローマ”と称されるのもうなずける話です。当時の街の姿を探るべく、今も発掘作業があちらこちらで進められています。

  • イメージ イメージ 威風堂々たる姿が今も残る、ローマ時代の円形劇場
  • イメージ プレトリア門は、紀元前1世紀頃につくられた城壁の一部とされている
  • イメージ 地下回廊「クリプトポルティコ」は、寒さを凌ぐ施設だったという説も
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じっくり煮込んだ肉料理 名産のチーズやワインも

古くからさまざまな文化が行き交っていたヴァッレ・ダオスタ州は、豊かな美食が育まれた地でもあります。百香合さんのおすすめは、「煮込み系」だそうです。

「野菜もおいしいし、ブイヨンソースやトマトソースで煮込んだ牛肉、ソーセージなども好きですね。あとはアオスタの名産で、フォンティーナチーズもコクがあっておすすめです」

マリーニさんも、「この地域なら、やっぱりお肉でしょう」とのこと。「うさぎ肉の煮込みもおいしいですよ。じゃがいもが入っていて、バターを絡めてあったりします。ヴァッレ・ダオスタはすぐ隣がフランスなので、バターを使った料理が多いですね」と、多彩なおいしさを語ってくれました。

さらに、お2人とも「ワインもおすすめ」とのこと。「一番高い場所は標高1,200メートル付近まで、斜面を切り拓いた棚田のようにぶどう畑が広がっています」と百香合さん。その味わいについて、マリーニさんは「標高が高いので、南イタリアに比べると糖度は確かに低めになるんですね。でも日射量はあるし、ミネラルをたっぷり含んだ土壌で良質なぶどうが育っています。白ワインや発泡ワインが、きりっとした味でおいしいですよ」と、ソムリエならではの情報を教えてくれました。また、アルプス自生の香草を使ったリキュール「ジェネピー」も、名物のおいしいお酒だそうです。

  • イメージ 栽培が困難な傾斜地でぶどうを育てるため、生産量が少なく、貴重な味わいのワイン
  • イメージ 生ハム、サラミ、チーズなどアオスタの美味を山小屋レストランで
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ロープウェーで気軽に 名峰の迫力を満喫する

百香合さんが山肌に広がるぶどう畑を見たのは、ゆっくりと回転しながら登る最新式のロープウェー「スカイウェイ・モンテ・ビアンコ」に乗った時のことだそうです。モンテ・ビアンコとは、イタリア語でモンブランのこと。ヨーロッパアルプスの最高峰を眺めながら、標高約3,466メートルのエルブロンネル展望台に到着すると、「圧倒的な感動が押し寄せます。果てしなく山々が続いて、まるで海のなかにいるよう」と、その時の想いを語ってくれました。

  • イメージ イメージ マッターホルン南壁を眺めながら、標高約3,480メートルのプラトー・ローザ展望台へ

4,000メートル級の山に囲まれたヴァッレ・ダオスタ州最大の魅力は、ロープウェーで気軽にその迫力を体感できることです。マッターホルンも、麓の街チェルビニアからロープウェーに乗れば、神々しいその姿が目の前に。山に近い高地には小さな村もあり、コーニュ村では花々でバルコニーを飾ったホテルなどの愛らしい風景が迎えてくれます。ここから見えるのは、標高4,061メートルの名峰グラン・パラディーゾです。

  • イメージ バルコニーの花々が愛らしい、コーニュ村の老舗「ホテルミラモンティ」(ホテルの一例)
  • イメージ 山間に抱かれたコーニュ村の向こうに、名峰グラン・パラディーゾがそびえる

「イタリアの人にとって、ここは大人の高級リゾート」と、マリーニさん。「本当にそうですね。別荘も多いし、憧れの場所です」と、百香合さん。雄大な自然と悠久の歴史、豊かな美味が待つヴァッレ・ダオスタ州には、私たちの知らない奥深い魅力が、まだまだあふれているようです。

  • イメージ フランスとの国境に接する雄大なモンブラン山群を眺める
  • イメージ 360度回転しながら登る最新式のロープウェーで、モンブランを満喫