[ 国内特集② ]

世紀を超えて蘇った魅惑の輝き

薩摩切子と
中根櫻龜(なかねおうき)
の世界へ

企画=稲垣太郎/岸恵梨花 文=井上智之
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日本が世界に誇るアートの数々をご紹介する、『日本橋三越本店 アートギャラリー』。開催にタイミングを合わせて、当社では展示作品のものづくり現場やつくり手の想いにふれる旅シリーズを催行しています。

14代今泉今右衛門の有田焼、人間国宝・井上萬二の白磁をテーマにした旅に続く、第3弾を今号ではご紹介します。7月20日から開催される『薩摩切子作家 中根櫻龜 季のうつろい−光の調べ−』の前後に鹿児島市を訪れ、薩摩切子の魅力をご堪能いただきます。

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儚くも散り去った 薩摩切子の輝きを再び

透明ガラスの上に厚く被せた色ガラスをカットすることで浮かび上がる、“ぼかし”の妙。多彩な模様の組み合わせで現出させた、華やぎの意匠。そして日本ではじめて発色に成功した、奇跡の紅色。ずっしりとした薩摩切子の器を手に取り、光にかざすほどに、変幻なる輝きと壮麗さに思わず息を呑むことでしょう。

薩摩切子の歴史は、薩摩藩10代藩主・島津斉興(なりおき)が江戸の腕利き職人を雇い入れ、ガラス製造に着手したことに遡ります。その志を受け継いだのが、11代藩主の島津斉彬(なりあきら)です。彼は幕末の激動を見据え、軍備を強化するとともに、製鉄・造船・造砲といった殖産興業にも注力。その1つが薩摩切子の製造でした。

ところが、49歳という若さで斉彬は急逝。さらに薩英戦争でガラス工場が焼失するにおよんで、わずか20年ほどで製造技能が潰えたのです。彗星のように現れ、儚くも散った薩摩切子が蘇ったのは、約100年を経た1985年のことでした。

  • イメージ イメージ 気品を生み出す薩摩切子のぼかし 雅号にちなんで制作された、中根 櫻龜作 花見盃『桜寿』
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中根さんの情熱に心打たれ ものづくりの息吹にふれる

高まる期待とともに島津家ゆかりの「仙巌園」に隣接する切子工場へ。出迎えてくれる中根櫻龜さんこそが、世紀を超えた復活ドラマの立役者です。斉彬の想いを今に蘇らせたい一心で、中根さんは残された資料や文献を読みあさり、現存する作品を細部にわたって実測。当時の美しさを再現するために、工具や加工設備を試行錯誤しながら復元に挑んでいきました。特に“薩摩の紅ガラス”と珍重された往時の紅色は最大の難関で、安定して発色できるまでに数年の歳月を要したそうです。想像を絶する中根さんの苦闘ぶりと偉業は、復元25周年にあたり、島津家32代当主・島津修久(のぶひさ)さんから直々に“櫻龜”の雅号を受けたことからも伺うことができます。

中根さんが語ってくれる復活談とともに心躍るのが、薩摩切子づくりの現場見学です。直接、作業場に入り、職人さんの肩越しに伝統技能をご覧いただける特別な機会を用意しました。厚く被せた色ガラスをグラインダーで精緻に切削する職人技、生を受けたかのように浮かびあがってくるカッティング模様……。真剣勝負に挑むかのような緊迫感と、情熱ほとばしる臨場感を体験いただけます。

  • イメージ イメージ 今もなお情熱を持ち続け、製作に励む
  • イメージ 巧みなカッティング作業を、職人さんの肩越しに
  • イメージ レトロな雰囲気の「磯工芸館」には、薩摩切子の作品がずらり

見学後は、工場に隣接するギャラリーショップ「磯工芸館」で、中根さんのギャラリートークと色とりどりの薩摩切子の作品を鑑賞。昼食は、日本を代表する大名庭園「仙巌園」で薩摩切子の器を使った薩摩郷土懐石料理をどうぞ。

眼前に広がる錦江湾、噴煙立ちのぼる桜島を望みながら、志半ばで逝った斉彬の無念や、数奇なる薩摩切子の運命に想いを馳せるひと時も、心沁みる旅の思い出になることでしょう。

  • イメージ イメージ 「仙巌園」の貴賓室で、錦江湾や桜島を望みながら薩摩郷土懐石料理を
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薩摩切子作家 中根櫻龜
季のうつろい ー光の調べー
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会期:2022年7月20日(水)~25日(月)※最終日午後5時終了

会場:日本橋三越本店 本館6階 美術特選画廊