わずか200年余り。人類が南極を発見してから流れた時間です。最初に南極大陸の陸地が発見されたのは、1820年頃といわれています。
その少し前、かつて、誰も辿り着いたことのなかった南極大陸を探し続けた探検家がいました。英国海軍の探検家ジェームズ・クックは1772年から約3年間にわたり新大陸を探し続け、南極圏には到達したものの大陸は見つからず帰還。彼の航海記録には「極の近くに陸地が存在し、広大な南の海に浮かぶ氷のほとんどがその陸地で生み出されている」と書き残されています。
大陸発見から時を経た今も、南極は「一生に度は足を踏み入れたい」憧れの地です。かつては冒険家や研究者など限られた人だけが訪れる場所でしたが、今では一般の旅行者でも訪れることができるようになりました。客船やコースを選べば、より快適に南極クルーズを楽しむことができます
今回は2023年1月に出発する、世界的に評価の高い小型ラグジュアリー船での南極への船旅をご紹介しましょう。日程は5泊6日のクルーズを含めて計14日間。ヨーロッパに行くような日数で南極への旅が実現できます。
このツアーの特徴は、世界で最も荒れる海域の1つといわれる「ドレーク海峡」を飛行機で移動し、揺れの心配なしに南極に行けることです。一般的なクルーズ旅行ではドレーク海峡を航海しないと南極に到達できず、海峡で揺れがひどい場合には、机の上から備品がすべて落ちてしまうこともあるほどです。
今回のように、ドレーク海峡を客船でなく飛行機で越えるツアーは、疲れずに楽に南極に行けると好評を得ています。
飛行機で南極への玄関口キングジョージ島に到着し、客船シルバー・エクスプローラーに乗船。船会社シルバーシー・クルーズは細やかなおもてなしが特徴で、各室にバトラー(執事)が配置されています。客室は全室スイートで、一般的な南極クルーズの客船に比べて2倍近い空間が確保されています。乗客全員にパルカ(防水性の防寒上着)が進呈されるため、防寒着は持参不要でお乗りいただけます。南極の平均気温はマイナス1度ほど。札幌の1月より暖かいくらいで、パルカの下はフリース1枚でも平気なほどです。
食事に定評のある客船なので、質の高い食材で工夫を凝らした毎日の食事はとても楽しみになるでしょう。たとえばチリではチリ産スズキのローストなど、メインダイニングでは航海先の地域特産品を使ったメニューが提供されることもあります。「ザ・グリル」というレストランでは、熱した溶岩の上で肉や魚を焼き、お好みの焼き加減でお召しあがりいただけます。また、展望を楽しめるラウンジやライブラリーは洗練された雰囲気で、南極の景色をより一層美しく見せてくれます。
19世紀に人類がはじめて大陸に足を踏み入れるまで、南極は人跡未踏(じんせきみとう)の大陸であり続けました。そのため21世紀の現代にあっても文明圏から遠く離れているので汚染の影響を受けにくく、純粋そのものの自然が残されています。地球環境の変動を知る上でも、最も敏感なセンサーともいえる場所なのです。
今回は、サウスシェトランド諸島と南極半島の西海岸を氷河に沿って航行します。流氷のひしめく入江、入り組んだ氷河の湾などを探検し、南極ならではのさまざまな風景に出あえるでしょう。上陸観光は、船に積んだゾディアックといわれるゴムボートに乗り換えて出かけます。ボートを乗り降りしての観光が中心で、長時間歩くことはないため、特別な体力がなくても安心して参加できます。
乗船するシルバー・エクスプローラーは、定員144人と小型。南極は自然環境保護が徹底されており、一度に上陸できる人数は制限されています。そのため乗客数が多い大型客船より、小型客船では待ち時間が少なく、上陸チャンスが多くなるのもメリットです。
南極クルーズのハイライトの1つは、2日目のアンタークティック・サウンド。ここではスタジアム級に巨大なテーブル状氷山が見られ、南極までやって来た感動が湧き起こるに違いありません。
5日目のサウスシェトランド諸島のデセプション島では、崩落した火山のカルデラの中心に向かって航海します。月の風景を思わせるカルデラ内部で散策を楽しんだり、ペンデュラム・コーブの地熱で暖められた温水に浸かったりもできます。また、この諸島にあるエレファント島は、1915年に沈没したエンデュアランス号から脱出した探検家アーネスト・シャクルトンと乗組員が冬を生き抜いた場所でもあります。
南極では、ペンギンやアシカ、クジラなどの野生生物を間近で見られるのも楽しみです。ペンギンの産卵は12月で、訪れる1~2月の時期は子育てのシーズン。愛らしいペンギンのひなの様子をご覧いただける季節でもあります。
このクルーズで出あえるかもしれないのは、ジェンツーペンギンとアデリーペンギンです。ペンギンのルッカリー(集団営巣地)を訪れる予定もあるので、何万羽と集まって島を埋め尽くすような集団を観察できます。専門のエクスペディションチームが自然観察のサポートをしてくれますので、野生動物たちに遭遇する貴重な機会を逃さず旅を楽しめるでしょう。
さて、この旅への拠点、南米プンタ・アレナスまではフライトの負担を軽減するため、アメリカまたはカナダの中継都市で1泊します。乗船前には、1914年にパナマ運河が開通するまで太平洋と大西洋を結ぶ港町として栄えたプンタ・アレナスを観光します。
数々の冒険家たちの心をとらえた南極へ、体に優しい、こだわりのコースで訪れてみませんか。