日本のモノづくりを辿ると、人々が知恵を結集しての産業興こしに数多く行き着きます。ご案内する旅先・鯖江もその1つ。眼鏡づくりの歴史とこだわりにふれるとともに、名湯で冬の味覚と風情にたっぷり浸ってはいかがでしょう。
それにしても近代文明の利器ともいえる眼鏡づくりが、なぜに越前の一寒村で興隆したのでしょうか。先見の明を発揮したのが、生野村(現・福井市)出身の実業家である増永五左衛門(ますながござえもん)でした。彼は雪深い農閑期にも地元民が収入を得るための副業として、大阪で学んだ眼鏡フレームづくりを推進。1905年、私財を投じて現地に製造工場を創設し、職人の育成や製品の開発に尽力していきました。
折しもの活字文化の普及を追い風に需要は拡大し、福井や鯖江を中心とした一帯は眼鏡フレームの一大生産地として発展。1981年にチタン製フレームの製作に世界ではじめて成功し、2001年には新素材のゴムメタルを使った眼鏡フレームの製造を開始するなど、最先端技術に挑みながら世界に誇る眼鏡の聖地としての地位を確立していったのです。
この旅ではそんな鯖江の地にあって、創業130余年の歴史を刻む眼鏡店・金鳳堂の自社工場である「クリエイトスリー」を訪問。掛け心地にこだわる眼鏡フレームづくりを、ゆっくりとご覧いただきます。通常、この工場が公開されるのは、地元関係者のみ。観光ツアーとしては初の現場見学となります。
1歩、足を踏み入れると、そこは緊迫感と熱気が渦巻くモノづくりの世界。眼鏡フレームは、多いもので200以上の工程を経て完成されるだけに、数多の熟練工が分業で製作に携わっています。限られた寸法内で計算し尽されたデザインを基に、フレームの金型づくりやプレス、切削、ロウ付け、そして研磨、表面処理、仕上げにいたるまで100分の1ミリ単位の精度を究めていく作業は、まさにジャパンメイドの誇りを賭した職人技。肩越しに見る手さばき、指さばきに息を呑むことでしょう。
昨今の既製品とは対極にある愛着の品として、金鳳堂の眼鏡フレームは世界中から注文が舞い込みます。なかでも手づくりの粋を結集した最上級ブランド「鯖江光器」は、三越伊勢丹グループ店舗内の金鳳堂メガネサロンでもお取り扱いしています。その絶妙なフィット感を、ぜひお試しください。
冬の福井といえば、温泉と海の幸。モノづくりの真髄にふれる前に、あわら温泉の「グランディア芳泉 別邸 個止吹気亭(ことぶきてい)」でゆったりと寛ぎましょう。客室は、すべて露天風呂付きのスイート。伝統と格式が息づく空間で、癒しのひと時をお過ごしください。
ご夕食は、水揚げされたばかりの越前がにを、旬の懐石料理とともにお召しあがりください。地産ブランド・ガニの証である黄色の識別タグをつけた雄ガニは、“冬の味覚の王様”と称されるにふさわしい旨さです。濃厚にして繊細な甘みに、思わず笑みがこぼれることでしょう。
冬を忘れさせる、モノづくりの匠の技。そして冬だからこそしっとりと沁みわたる、越前の旅時間をご満喫ください。