深々とした原生林の山容をバックに、鮮やかな朱塗りの社殿群が瀬戸内海に浮かぶ「嚴島神社」。月明かりのもとでのライトアップで、荘厳な絵画のように幻想的な世界が広がります。そして、広島市の中心部から車で西へ1時間ほどの山あいに佇む「マルニ木工」は、創業家が嚴島神社と深いかかわりを持ち、工芸の美しさにこだわる老舗の家具メーカーです。そんな2つの美を探訪する今回の旅では、繊細な弦楽四重奏の夜間奉納公演もお楽しみいただけます。
「安芸の宮島」が、宮城県の「松島」、京都府の「天橋立」とともに、“日本三景”としてはじめて登場するのは、江戸時代初期に儒学者の林春斎が記した『日本国事跡考(にほんこくじせきこう)』だといわれています。そんな宮島のシンボルである「嚴島神社」が創建されたと伝えられるのは、推古天皇が即位した593年のこと。その後、1168年に、安芸守となった平清盛が、壮麗な寝殿造の様式を取り入れた、現在同様の姿に修造しました。陸地ではなく、わざわざ潮が満ち引きする場所に社殿が建てられたのは、「神を斎(いつ)き祀(まつ)る島=嚴島」として、島全体が崇められていたことから、その“神の住む地”を傷つけないためであったといわれています。かつては、神職ですら島内に住んでいなかったというのも当然だといえるでしょう。
2022年に3年半におよぶ修復を終えた大鳥居は、1875年に再建された9代目で、高さ約16.6メートル。クスノキの2本の主柱の前後に、杉の袖柱4本を配して、上下2段の袖貫で柱をつないでいます。驚くべきは、その主柱も袖柱も地中に埋め込まれていないこと。平らな石の上に柱が据え置かれ、約60トンの鳥居の重みで絶妙なバランスを維持しているのです。また、背景の弥山(みせん)の緑と調和した社殿群も神秘的。本社本殿を中心として、祓殿(はらいでん)の左右から延びる廻廊で客神社、天神社、能舞台などを水平に美しくつないでいます。その廻廊や平舞台の床板は、隙間を空けて張られているのが特徴。大潮や高潮で冠水した際に水圧を逃がす、海上建築ならではの工夫が凝らされています。
精緻なモノづくりにより、高品質で美しいデザインの家具を世界に送り届けている「マルニ木工」は、嚴島神社と深いつながりを持っています。それは、創業家である山中家が、かつて嚴島神社の氏子総代として、祭祀や保護活動に力を注いでいたことにあります。
そんな宮島にルーツのあるマルニ木工の世界的評価を高めたのが、2008年に発売された「HIROSHIMAアームチェア」です。背からアームにかけての緩やかなカーブが美しいこの椅子は、世界的IT企業のアメリカ本社に数千脚納品されたほか、「G7広島サミット2023」でも採用されました。また、首脳会議用円卓テーブルや卓上国名プレートは、広島県産の無垢のヒノキを使い、厳しい時間的制約のなか完成させたものだと、現社長の山中洋さんは語ってくれました。
マルニ木工は、創業者である山中武夫さんが、少年時代を過ごした宮島で木の伝統工芸品にふれ、まるで手品のように形を変えていく「木の不思議さ」に魅了されたことに端を発します。その後、学生時代に機械について徹底的に学んだ武夫さんは、「工芸の工業化」に的を絞るとともに、難易度の高い木材の曲げ技術を確立。分業化による家具の工業生産を目指したのです。そこには、「近代的な産業として木工業を興したい」「日本の住宅文化のレベルを高めたい」という強い思いがありました。現在、広島市湯来町の工場では、材料の選別から部品加工、組み立て、塗装・張りまでの、木工家具生産に関わるすべての工程を一貫製造。1960年代からつくり続けているヨーロッパ調の優雅な彫刻家具や、現代の暮らしにマッチするシンプルで洗練されたデザインの「MARUNI COLLECTION」などを、30の国と地域で販売しています。最後は職人の手で美しく仕上げられる、こだわりのモノづくりを、ぜひご自身の目でお確かめください。
この度は、マルニ木工の世界をご体感いただく特別な旅にご関心をお寄せいただき、心より感謝申し上げます。私たち、マルニ木工は、1928年の創業以来、広島の地で「工芸の工業化」を掲げ、時代を超えて愛される家具をつくり続けてまいりました。その背景には、職人1人ひとりの技と心、そして木の持つ温もりを活かし、人と暮らしに寄り添うモノづくりへの想いがあります。今回の旅では、通常ではご覧いただけない工場での製作現場をご案内し、家具づくりに込められた匠の技と情熱を間近にご体感いただきます。私たちの創業者ゆかりの地・宮島にて、自然と文化、伝統と革新が響きあう、かけがえのないひと時をお過ごしいただければ幸いです。皆さまとお会いできますことを、心より楽しみにしております。
近年、日本の有名な観光地は、インバウンド需要の高まりもあって、以前にも増して多くの人で賑わっています。それは宮島も例外ではありません。しかし、夕暮れが迫り、島内の飲食店などが閉まりだす頃になると、道ゆく人がみるみる減少。海に浮かぶ大鳥居や嚴島神社の社殿がライトアップされる夜には、昼間の賑わいが嘘のような、圧倒的な静寂さと荘厳さに包まれ、穏やかな波音が耳に心地良く響きます。
今回の旅では、そんな“神の島”にふさわしい、神聖な雰囲気が支配する夜の宮島へ、ホテル前の桟橋から貸切高速船でご案内(Aコースは復路のみ)。一般拝観閉門後の嚴島神社において、弦楽四重奏の夜間奉納公演をお楽しみいただきます。演奏するのは、広島交響楽団コンサートマスターの北田千尋さん(ヴァイオリン)、「新日本フィルハーモニー交響楽団」元ヴィオラ首席奏者の中恵菜さん、「紀尾井ホール室内管弦楽団」メンバーの城戸かれんさん(ヴァイオリン)、「Japan National Orchestra」コアメンバーの香月麗さん(チェロ)の4名。ちなみに、北田さんの祖父である北田和広画伯の絵画が嚴島神社に奉納されています。幻想的な夜の海上社殿に響きわたる、優美な音色をゆったりとご鑑賞ください。
Aコースは、宮島での時間をたっぷりとった2日間のツアーです。まずは、1日目の午後にさっそく宮島を訪れ、案内付きで、「嚴島神社」の参拝と島内散策をお楽しみいただきます。その後、夜間奉納公演の前に、夕食をお召しあがりいただくのが「宮島レ・クロ」。ここは、1912年竣工の古民家をリノベーションしたレストラン&カフェ。100年以上にわたり大切に守られてきた吾妻障子や欄間などの意匠と美しい日本庭園を眺めながら、イタリア料理のコースをゆったりどうぞ。「グランドプリンスホテル広島」に宿泊した翌日、「マルニ木工」の工場見学にご案内します。
Bコースは、Aコースと同じく2日間のツアーです。1日目の午後に「マルニ木工」の工場見学をしたあと、宿泊する「グランドプリンスホテル広島」で早めの夕食をおとりいただき、貸切高速船で「嚴島神社」の夜間奉納公演へと向かいます。そして、2日目の午前に案内付きで宮島の島内散策と嚴島神社の参拝をご満喫いただいたら、昼食は、先々代による広大なツツジの公園づくりからはじまった、料亭「半べえ」へ。昭和期の日本を代表する作庭家「重森三玲」の手による趣ある池泉回遊式庭園と、瀬戸内の旬の食材を活かした懐石料理を心ゆくまでご堪能ください。
Cコースは、1日目に、多島美が広がる「瀬戸内しまなみ海道」のドライブと「道後温泉」の名湯をお楽しみいただく3日間のツアーです。道後温泉の宿は、390年以上の歴史を持ち、多くの俳人や文化人に愛されてきた名旅館「ふなや」。古代ヒノキの湯船がかぐわしい大浴場などで贅沢な癒やしのひと時をどうぞ。2日目は、現存12天守の1つを有する壮麗な「松山城」を見学したあと、松山観光港から高速船で広島へ。宿泊する「グランドプリンスホテル広島」での夕食後、「嚴島神社」で夜間奉納公演を鑑賞し、最終日に「マルニ木工」の工場を見学いただきます。