ひげ面の大柄な体。威圧するようなその風貌に反して、やさしい眼差しと語り口で自然や生き物への想いを語る姿に共感を覚えた皆さまも多いことでしょう。
作家にして、日本の環境保全のオピニオンリーダーでもあったC.W.ニコルさん。惜しまれながら永眠するまで彼が30年以上も再生に取り組んだのが今回の旅の舞台、長野県・黒姫高原の「アファンの森」です。
ご多分に漏れずこの森は、経済発展のために樹齢数百年におよぶナラ、ブナ、トチなどの原生林が無残にも切り倒され、スギやカラマツの人工林になっていました。放置され荒廃したままになっていたため、地元では“幽霊森”と呼んでいたそうです。
自宅もあるこの森を「再び、生命あふれるようによみがえらせたい」とニコルさんは、私財を投じて敷地を少しずつ購入。1986年に再生活動をスタートさせました。“アファン”とは、彼の故郷・ウェールズ語で“風の通る所”という意味。石炭の採掘とその後の廃坑によって荒れ果てていたウェールズの森が、人々の努力によってよみがえった「アファン・アルゴード森林公園」の成功例を日本にも、という想いを込めて名付けられました。
通常非公開の「アファンの森」の見学ツアーは、当社として初の試み。昨年初秋の当社社員による視察時の様子とともにご紹介します。なお当ツアーは、旅行代金の一部を自然保全活動に還元する「SDGsの旅」としてご案内させていただきます。
「アファンセンター」で説明を受けたあと、専任ガイドとともに森のなかへ。うっそうとした雰囲気を想像するかも知れませんが、木々を間伐し地面を覆っていた笹や薮を払うなど手入れが行き届いたこの森には、爽やかな風がたゆたうように吹き抜け、木漏れ日がゆるやかに射し込んでいます。ウッドチップが敷き詰められ起伏も少ない小径を歩み進むほどに、これぞ日本の里山という清々しさに満たされることでしょう。2008年には、自然環境に造詣が深い英国の国王チャールズ3世が皇太子時代に訪れました。
2020年に亡くなったニコルさんの遺志を受け継ぎ、森の再生を推進する「一般財団法人C.W.ニコル・アファンの森財団」の活動により、東京ドーム約7.5個分、約35ヘクタールの広さを有する「アファンの森」に、多くの生物が帰ってきました。約90種類の鳥類、約1,000種類の昆虫をはじめ、ツキノワグマがハチミツを食べに来たり、森の守り神・フクロウのひなが毎年巣立っていったり……。森の再生という想いの輪が着実に広がってきたことに、ニコルさんも天国で目を細めているのではないでしょうか。
「アファンの森」からほど近い、「アファンホースロッジ」でのひと時も心躍ります。新緑も眩しい山々に抱かれながら、馬とのふれあいをご体験いただきます。乗馬やブラッシングなど、童心に帰ったような楽しさを満喫いただけることでしょう。
ご宿泊は、湯田中温泉の温泉宿「あぶらや燈千(とうせん)」で。露天風呂付き客室や大浴場から眺める信州の景色が麗しい名湯でゆったりと憩いながら、ニコルさんの想いやよみがえった森、馬とのふれあい、そしてSDGsにわずかながらも貢献できることの充足感に浸る旅を、この機会にぜひどうぞ。