[ 海外特集 ]

石川俊平 視察報告

好奇心を満たす未知なる大国
サウジアラビア

企画=坂尾美浩 文=石川俊平
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3月、アラビア半島の大国、サウジアラビアの視察に行ってまいりました。誰もが知るアラブの盟主でありながら、観光での入国が認められていなかったため、これまでほとんどの日本人にとって未知の国でした。2019年、世界に開かれた自由でオープンな国を目指す、という方針のもと、観光目的での訪問が可能となりました。その後のコロナ禍でなかなか訪問が叶わない状態でしたが、ようやくその機会を得ることができました。

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久しぶりに味わう“はじめての国”のドキドキ感

これまで多くの国にお客さまとご一緒させていただきましたが、サウジアラビアははじめて足を踏み入れる国。私自身、久々に訪れる“はじめての国”でした。これまで持っていたイメージは、1つは潤沢に産出されるオイルマネーによって飛び抜けた大富豪たちが豪奢な暮らしをする国。一方でアラブ諸国のなかでもより厳格なイスラムの戒律の下で、男性は皆白い1枚布の服(トーブという伝統的な衣装)を着て、女性は黒1色の服(アバヤ)に頭部を覆うスカーフ(ヘジャブ)をまとう、個性や自由が少ない、言い換えると少々重苦しい雰囲気の国、というものでした。

そんなイメージがあったため、成田空港からUAEで乗り継ぎ、首都リヤドに到着した時には「本当にこの国に入国できるのか」「少しでも戒律に反するようなことがあれば、拘束されて強制帰国させられてしまうのでは……」などと余計な心配が頭をよぎっていたほどです。ドキドキしながら入国審査へ向かうと、そこは世界中の空港とまったく同じ。パスポートを提示し、特に質問されることもなく、すんなりと通過。無事に入国することができました(笑)。

  • イメージ イメージ リヤドのモスク内。大勢の人たちが祈りを捧げる様子にしばし言葉を失う(左上)
    ホテル近くのスーパーではお寿司も売られていた。アニメなど日本の文化も大人気(左下)
    おもてなしの心にあふれたサウジの人たち。
    どこに行っても歓迎のサウジ・コーヒーを入れてくれる(右)
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今のうちにみておきたい、急速に発展中の首都リヤド

最初に滞在したのは首都リヤド。この国の成り立ちやそこに暮らす人々の本質を知るためには、やはり首都はしっかり見ておきたいところです。旧市街エリアには、マスマク要塞(内部は歴史博物館)、そして郊外にはディライーヤ遺跡があります。これらは国を治めるサウード家ゆかりの地。ほとんど情報がなかったサウジアラビアという国の、歴史の一端を垣間見ることができました。

一方、キングダムタワー周辺は、近未来の世界を想像させる超高層ビルが立ち並ぶ一帯です。同じアラブの近未来都市ドバイに追いつけ追い越せとばかりに、国の経済的威信をかけたプロジェクトが進行中です。

  • イメージ 週末の夜はとても賑やかなアル・ウラのオールドタウン(旧市街)。散策やお土産探しも
  • イメージ ホテルから見たリヤドの夜。光り輝く夜景に国の勢いを感じた

大きな衝撃を受けたのは、グランドモスクを訪問した時。そもそもイスラム教徒でない自分が、イスラムの教会に入れてもらえるとは思ってもいませんでしたが、案内人の招きでなかへ入ると、ちょうど午後のお祈りの時間。巨大なカーペットの広間に、数えきれないほど大勢の人々が集い、聖地メッカの方向を向いて真剣に祈りを捧げていました。その圧巻の光景を見て感じたことは、この国が決して戒律に縛られた重苦しい国などではなく、人々が平穏で豊かな心を保つために、気持ちを1つにして祈りを捧げる、純粋で温かい心を持った人たちが集まった国なのだということです。

主な見どころの視察後は宿泊先のヒルトンホテルへ。2019年以降、サウジアラビアには多くの外資系ホテルが進出。そのため新しい建物が多く、視察に訪れたそのほかのホテルも質・サービスともに欧米などの先進国と遜色なく快適に過ごせるものでした。

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2,000年余りの歴史を実感 世界遺産マダイン・サーレハ遺跡

リヤドから航空機で北西部のマダイン・サーレハへ向かった日の朝、驚いたのは、今回案内人として同行してくれた、国の観光局員メシャールさんの服装。前日までは白い伝統衣装トーブをまとっていましたが、この日は半袖のポロシャツにチノパンというとてもカジュアルな格好。聞いてみると、だいたい普段はこのような服装をしているとのこと。白いトーブは、大事な行事や大切な人と会う時に着用するもので、日本でいうスーツのようなものだそう。サウジの人々はいつも白い服を着ているものと思い込んでいたので、こういう自由で気軽な服装が日常なのだ、と親近感を覚えた瞬間でした。

  • イメージ イメージ ナバテア人によってつくられた巨大な岩窟墳墓、世界遺産マダイン・サーレハ遺跡。
    人の存在はちっぽけ 

マダイン・サーレハは、広大な荒野のなかに突如として現れる古代の墳墓遺跡。巨大な岩山がくり抜かれたヨルダンのペトラ遺跡を彷彿とさせるのは、同じ砂漠の民ナバテア人たちの手によってつくられたものだからです。いくつもの墳墓が点在しているため、遺跡内専用のバスに乗りながら、そのうちの数カ所をめぐります。サウジの観光の目玉はやはりここ。壮大な荒野に刻まれた深い歴史、繊細な岩窟墳墓に心奪われたままの1日でした。

宿泊したのは、荒野のオアシスをイメージして建てられた「シャディン・リゾート」。巨大な奇岩群を目の前に、壮大な自然景観に抱かれた優雅な滞在で、ここまでの疲れが一気に吹き飛びました。

  • イメージ 数百万年の水と風の浸食でできた奇岩エレファントロック。夕暮れ時は特に幻想的
  • イメージ アル・ウラのホテル「シャディン・リゾート」。奇岩群を前に開放的な気分で朝食を
  • イメージ イメージ ギネスにも登録された世界最大の全面鏡張りのコンサートホール。まるで砂漠の蜃気楼のよう
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聖地メディナで万国博覧会? 明るく自由な港町ジェッダ

メディナはメッカと並ぶ重要な聖地の1つ。近年までは、イスラム教徒以外の人は市域に入ることすらできませんでしたが、今は中心地まで自由に訪れることができます。その中心に鎮座するのは「預言者のモスク」。世界中から多くの巡礼者が国や団体ごとにグループをつくって訪れていました。メンバーがはぐれないように自国の旗や、おそろいのTシャツをまとっているので、さながらちょっとした万国博覧会のような雰囲気でした。私たちイスラム教徒でない人も、モスクの門前まで行って内部を覗き見ることができました。

メディナからは「ハラマイン高速鉄道」に乗車。時速300キロを超えるスピードであっという間にサウジ第2の都市ジェッダに到着。乗り心地は日本の新幹線と遜色ありません。走行音が静かで、実に快適な移動時間でした。

ジェッダは外国のクルーズ客船や貿易船が寄港する港町。古くから紅海の海上交易の拠点だったことから、ほかのどの街よりもおしゃれなお店が多く、自由で明るい雰囲気に満ちていました。女性のヘジャブは黒1色でなく、カラフルで多種多様。ファッションを最大限に楽しんでいる様子でした。

  • イメージ メディナの「預言者のモスク」の門前で。なかへは入れないが、ここまで来られたことに感激
  • イメージ メディナからジェッダを一直線に走るハラマイン高速鉄道。車窓を流れる荒野の景観も楽しみ
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イメージが変わりつつある国 今が変化を体感できるチャンス

冒頭で書いたような、厳格な戒律と重苦しい国、というイメージは今回の視察で180度変わりました。人々はみな一様に明るく、外国からやってきた我々観光客を温かく迎えてくれました。必要最低限の習慣やマナーさえ尊重すれば、旅行者はほかの国と同じように自由に旅を楽しむことができます。古き良き伝統と急速に変化する社会。その新旧の違いを実感できるのは、今しかないような気がしています。

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Q.イスラム文化やマナーについて詳しく知らないので不安です。

A.服装などごく基本的なことさえ尊重すれば、旅行者にとっては自由に、気楽に楽しめる国です。一方で、見慣れない習慣や文化をはじめて見たり、体験したりするのも旅の楽しみの1つだと思います。

Q.気候はどうですか?暑いイメージがあります。

A.今回訪れたのは3月中旬でした。日中の気温は30℃近くまで上がりましたが、湿度が高くないため不快な蒸し暑さはありませんでした。4月以降は気温が上がるので訪れるなら3月前半くらいまでがおすすめです。1~2月が最も過ごしやすい気候です。

Q.服装は? 特別な準備は必要ですか?

A.エジプトやドバイなどほかのイスラム教の国・地域と同様で、極端に肌の露出が多い服装でなければ、いつもの海外旅行と同じ動きやすい服装で大丈夫です。女性は頭部を覆えるスカーフを1枚お持ちいただくと便利です(モスク以外で使うことはありません)。

Q.宿泊施設は整っていますか?治安や衛生面が心配です。

A.欧米資本が進出し、新しいホテルが多いので、設備面・衛生面の心配はありません。経済的に豊かで規律が整っているため治安も良く、安心して過ごせます。ホテル周辺で自由に散策やお買物も楽しめます。都市部では交通量が多いので、車には注意が必要です。

Q.食事内容はどうですか?

A.リヤドでは伝統的なアラブスタイルの料理、港町ジェッダでは海鮮料理を主体としたコース料理がおいしくいただけます。どの地域でも野菜やフルーツが多く提供されます。お水はミネラルウォーターをご利用ください。

Q.アルコールは飲めますか?

A.飲食店での提供に加え、国外からの持ち込みも禁止されています。現地ではビール、ワインなどを飲むことはできません。