[ クローズアップ ]
春のセレナーデ号の船旅で楽しむ
オランダ・ベルギー
旅人を魅了する
名画の世界へ
企画=大泉千晶
文=小野瀬宏子
2024年9月に開催された「オランダ観光レセプション」では、同国を代表する5つの美術館の担当者たちが参加し、それぞれの見どころや今後の展示企画などを紹介。今回はその内容とともに、オランダとベルギーの魅力に精通する元オランダ政府観光局日本支局局長、現ベルギー・フランダース政府観光局日本代表の中川晴恵さんをお迎えし、各美術館の特徴やおすすめの見どころについて企画担当・大泉千晶がお話を伺いました。
美術館での絵画鑑賞が
オランダ旅行の大きな目的に
オランダの美術館での日本人来館者は年々上昇
読者の皆さまは、オランダというと何を思い浮かべるでしょうか。色鮮やかなチューリップの花畑と風車の原風景、はたまた、市場に並ぶさまざまな種類のチーズ? もちろん、それらもこの国ならではの旅の楽しみですが、今回は日本人観光客数が上昇中の「美術館」にスポットをあててご紹介します。
今回お話を伺うのは、31年にわたりオランダ政府観光局に勤務された後、現在もオランダ・ベルギーの情報発信やPR活動などに深く携わっておられる中川晴恵さん。「オランダ観光レセプション」、「オランダセールスミッション」開催についても次のようにご紹介いただきました。
「このセールスミッションは毎年開催されています。オランダの美術館に年々、日本人の観光客が多く来場され、日本が重要なマーケットとなっているわけです」。
このように美術館を訪れる日本人観光客が増えている背景にはどんなことが影響しているのか、中川さんに訊ねてみました。
「フェルメールやゴッホなどの特別展が日本の大都市圏で巡回開催され、オランダの美術作品の人気が高まっていると思います。実際に、日本人の当該美術館入館者数は国別でみても上位で、日本人の美術に対する関心の高さがうかがえます」。
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中川晴恵さん(右)と大泉千晶(左)中川さん着用のスカーフはアムステルダム国立美術館のもの!
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オランダセールスミッションは、オランダ大使館内で開催
日本人が親しみやすい画題もオランダ美術の魅力に
同じヨーロッパでも、たとえばイタリアでは宗教画の名作が多くありますが、オランダ美術の特徴の1つとして、日本人に親しみやすい画題が多いという点がありそうです。
「オランダはプロテスタントの文化や市民経済の発展により、歴史的に絵画鑑賞が盛んに。宗教的絵画だけでなく、風景画や静物画など画題も豊富です。身近なものが描かれているというのも、日本人にとって共感しやすく魅力的なのかもしれません」。
こうしたお話を伺っていると、ぜひ現地で鑑賞してみたいという思いが盛り上がってきます。今回の観光レセプションに登場したアムステルダム国立美術館、マウリッツハイス美術館、クレラー・ミュラー美術館、ロイヤルデルフトミュージアム、エッシャー美術館では「オランダミュージアムスタンプラリー」も協同開催し、多くの方々の来訪をお待ちしています。
続いては各美術館の見どころについて、主な収蔵作品を誌上鑑賞しながらご紹介していきましょう。
〈 アムステルダム国立美術館 〉
レンブラントの名作
『夜警』の修復作業は必見
オランダが誇る美術作品の数々に感動
まずご紹介するアムステルダム国立美術館は、世界最大規模のレンブラントのコレクションや、稀少なフェルメール作品なども所蔵するオランダ最大級の美術館。昨年開催された「フェルメール特別展」の来場者は約280万人と大好評だったそうです。
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フェルメールの『デルフトの小路』なども所蔵するアムステルダム国立美術館
「実は、私はプレスプレビューで入館できたので、非常に贅沢な時間で思い出深いです」と中川さん。大変貴重な、そして何ともうらやましいご体験です。フェルメール作品としては『青衣の女』や『デルフトの小路』が収蔵展示されています。
続いて、現在行われているレンブラントの『夜警』の修復作業についてもお伺いしました。
「ガラス貼りの部屋で修復作業が行われている様子を見学できます。なぜかというと、『夜警』は必ず一般公開されていなければならない、という決まりがあり、この作品だけは国外への持ち出しが禁じられています。このオランダの国宝をアムステルダム国立美術館へ行けば、どんな形でも見ることができるようにするため、修復作業も公開されているわけです。オランダの絵画修復技術の高さをその場で見られる絶好の機会でもあります」。
大規模修復については、ミラノにあるダ・ヴィンチの『最後の晩餐』やドレスデンにあるフェルメールの『窓辺で手紙を読む女』などで大きな発見がありました。現在、『夜警』はニスをはがす作業が行われているそうで、修復が進められるなかで、どんな新たな発見があるのか。レンブラントがこの作品に込めた“何か”と出あえるかもしれない、という期待も高まります。
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レンブラント作『夜警』
〈 マウリッツハイス美術館 〉
特別入場観光で
名画と対峙する贅沢なひと時を
息を呑むほどの美しさを ぜひ、現地でご体感ください
ハーグにあるマウリッツハイス美術館は、元々はヨハン・マウリッツの邸宅として建てられました。比較的小ぶりな作品が多く、じっくりとご鑑賞いただけます。作品の魅力を引き立てるような美しい壁紙も邸宅美術館ならでは。何といっても、フェルメールの『真珠の耳飾りの少女』が有名です。
「この作品は皆さんも1度は目にしたことがあるかと思いますが、たとえば図録などの印刷物で見るのと実物の作品とでは、色味がまったく異なります。表面の凹凸、光の反射具合など、やはり、ご自身の目で実物を見ることを強くおすすめしたいですね」。
そして、現存するフェルメール作品で2点しかない風景画の1つ『デルフトの眺望』も、ぜひご覧いただきたい作品です。
「オランダへ行くと平坦な地形なので、空が大きく感じます。そういう風景をいつも見ているから、こういった空が大きく描かれた作品が生まれたのかなと。雲がかかっているところもオランダらしいですね」。ぜひ、オランダを訪れる際には、空にもご注目を。
また、こちらでの収蔵作品のうち、中川さんのお気に入りを訊ねると、人気作品の1つ、ファブリティウスの『ゴシキヒワ』を挙げられました。
「小さな作品でかわいいですよね。それに、身近な題材である小鳥だけを描いた作品が欲しいという買い手がいたことに、当時のオランダ社会の成熟さを感じます」。こうした日本人にも親しみやすい画題の作品も、大変人気があります。ほかにもポッテル作『雄牛』の修復作業など、数々の見どころを特別入場観光でご満喫ください。
春のセレナーデ号の船旅で楽しむオランダ・ベルギー
〈 クレラー・ミュラー美術館 〉
自然に囲まれた心地良い空間で
ゴッホ作品などを鑑賞
充実のゴッホ・コレクションや近代アートの彫刻も展示
デ・ホーヘ・フェルウェ国立公園のなかにある美術館。世界第2位の規模となる約270点ものゴッホ・コレクションのほか、スーラ、ピカソ、ルノワールなどの作品も所蔵しています。こちらの美術館について中川さんの印象を伺うと「アムステルダムから陸路で行くとなると、電車と路線バスで約3時間かかりますが、それでも充分に行く価値があります。こんな田舎で、こんな名作と出あえるとは! とうれしい驚きがありました」とのこと。その点、セレナーデ号ならナイメーヘンの港まで船で行くので、陸路よりも移動時間が少なく快適です。
数多くの美術館を訪れている中川さんが、これほどおすすめされる理由は収蔵作品の豊富さに加え、環境のすばらしさにもあるそうです。美術館の創設者ヘレーネ・クレラー・ミュラーは、静かな自然のなかでこそ、集中して芸術を楽しめると信じていたそうです。セレナーデ号の船旅では、自然豊かで開放的な美術館を満喫いただけるよう、添乗員が主な見どころを簡単にご案内するにとどめ、お客さまのペースでご鑑賞いただけるよう配慮しています。彫刻美術館になっている広々とした庭園の散策もおすすめ。森の緑と芸術作品との共演をお楽しみください。2026年には安藤忠雄さんの設計による拡張工事が予定され、さらに魅力的な空間が広がることでしょう。
また、来秋には日本でゴッホ展が開催予定で、クレラー・ミュラー美術館から一部の収蔵作品が出展。日本では混雑が予想されますので、その前にぜひ、現地でゆったりとご鑑賞されてはいかがでしょうか。
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ゴッホ作『アルルの跳ね橋』
セレナーデ号で彩り豊かな旅景色も心ゆくまで
各美術館で見応えのある作品が待っているオランダの芸術鑑賞の旅。春のセレナーデ号の船旅では、AコースとBコース、2つの基本コースをご用意しています。オランダを代表する名画をハイライトで鑑賞したいという方には、アムステルダム国立美術館、マウリッツハイス美術館を訪れるAコース。それらに加えてゴッホの有名作品や、絵画以外のオランダの芸術にも興味がある方には、クレラー・ミュラー美術館、ロイヤルデルフトミュージアム(行先をお選びいただく「こだわり観光」で見学)にも訪れるBコースがおすすめです。
また、心に残る見どころはほかにも。色とりどりの花々があふれるキューケンホフ公園や、河沿いに建つ昔ながらの風車の姿。どこに目を向けても絵になる風景が広がっています。
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キンデルダイクの風車群
そして、寄港地観光からセレナーデ号にお戻りになったら、ぜひ船上からの景色にも目を凝らしてみてください。どこまでも続く草原、どこか憂いを漂わせたようなグラデーションの、広い空。郷愁を感じさせるオランダらしい風景を眺めていると、こうした情景をキャンバスに残したいと思った画家たちの心にふれられるような気がします。
オランダの芸術や自然美をたっぷりと楽しんだら、ご当地の美味をお土産に選んでみませんか。「ストロープワッフル」は、薄めに焼いた2枚のワッフル生地でキャラメルソースを挟んだ伝統的なお菓子です。また、名産のチーズはさまざまな種類が店頭に並んでいます。「お土産には、プレーンなものをお選びいただくとワインやお食事にも合わせやすくおすすめ」と中川さん。試食できる場合もありますので、お好みの味を見つけるのも楽しいでしょう。
春のセレナーデ号の船旅で楽しむオランダ・ベルギー
こちらも見逃せない!
厳かな雰囲気に包まれて
神々しい名画と出あう、ベルギー
春のセレナーデ号の船旅で訪れる、もう1つの魅力あふれる国、ベルギー。バロック美術の巨匠、ルーベンスの作品をはじめ、見どころが多彩です。また、それぞれのつくり手が独自のこだわりを込めたチョコレートやビールなど、中川さんのおすすめの美味もご紹介します。
似ているようで大きく異なる オランダとベルギー
一般的なツアーでオランダとベルギーは合わせて訪れることが多く、なんとなく似ている国という印象があるかもしれませんが、実は大きな違いがあります。その源にあるのは宗教の影響でしょう。オランダではプロテスタント、なかでもカルヴァン派が主流だったことから教会にはキリスト像などの偶像は設置されず、質素なつくりであることがほとんどです。プロテスタントの質実剛健さの現れといえます。一方、ベルギーはカトリック教徒が多く、教会には見事な装飾が施されています。また、人生をいかに楽しむかという思想から、食事を楽しむガストロノミー文化へ発展したそうです。両国の宗教の違いが考え方の違い、さらに文化の違いを生み出したといえるでしょう。
レンブラントの傑作が揃う大聖堂やブルージュへ
セレナーデ号の船旅で訪れるアントワープ大聖堂は、ベルギー最大級のゴシック様式の教会。ルーベンスが描いた『聖母被昇天』、『キリスト昇架』といった傑作が飾られています。『フランダースの犬』の名シーンを思い出す方も多いでしょうが、現地ではほとんど知られておらず、大聖堂の近くにネロとパトラッシュのモニュメントがつくられてから、段々と知られるようになったそうです。
アントワープは、ルーベンスと深いつながりがある街。10代の頃に当地で絵画を学んだ後、イタリアで画家としての経験を積み、再びアントワープへ戻りました。その後も宮廷画家として活躍し、100人ほどの弟子を抱えていたそうです。数々の名作を生みだしたアトリエは、現在も残されています。
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全長約123メートルの塔がそびえる壮麗なアントワープ大聖堂
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教会内に射す陽の光が『聖母被昇天』を神秘的に照らす
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迫力あふれる『キリスト昇架』は見応えのある大作
また“水の都”ブルージュも芸術の街といえるかもしれません。こちらでは、のんびりと運河クルーズをお楽しみいただきます。河沿いに続く中世の街並みは、まさに絵画のよう。この街が“屋根のない美術館”と呼ばれるのも納得です。自由行動の時間もあるので、本物の絵画鑑賞も楽しみたいという方は、細密画のコレクションがある「メムリンク美術館」を訪れてみてはいかがでしょう。フランドル派の画家、メムリンクの作品でベルギー七大秘宝の1つ『聖ウルスラの聖遺物箱』も展示されています。
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ブルージュの運河クルーズでゆったりと水上散歩
チョコレートやビールなど こだわりの味を旅の思い出に
本場のベルギーチョコレートは、家族経営の小さなお店から、世界的に展開するブランド店まで多数あります。なかでも中川さんのおすすめは、上品な味わいとかわいいパッケージが魅力の「MARY」とのこと。1942年にベルギー王室御用達の称号を授与された老舗です。また、ブルージュの「チョコレートライン」もお気に入りのお店で、メキシコにカカオ豆の直営農場を持っているそうです。
「ベルギービールのおすすめはランヴィックという種類」と中川さん。ブリュッセル南西のパヨッテンラント地方で生産される伝統的なビールだそうです。スーパーマーケットやビール専門店で探してみてはいかがでしょう。
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ブリュッセルのグランプラスにはベルギーチョコレートをはじめ、たくさんのお店が立ち並ぶ
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「チョコレートライン」は選ぶのも楽しい豊富な品揃え
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長い歴史と、多種多様な銘柄があることで知られるベルギービール