9月、就航を目前に控えた「MITSUI OCEAN SAKURA(三井オーシャンサクラ)」の命名記念式典へ。来年3月22日から5泊6日、私たちが1隻まるごとチャーターする船です。真新しい船内を歩き、客室を確かめ、料理を味わう。もちろん、はじめて目にするものもありました。しかし、この日一番心に残ったのは、新しさとは少し違うものでした。「あ、お久しぶりです」「あれー、こっちに乗るんですか」 ――船内のあちらこちらに、懐かしい顔があったのです。
「この船を『三井オーシャンサクラ』と命名する」――全社員の思いを込めたという命名は、著名な方の号令ではなく、壇上に並んだ大勢の社員たちのかけ声でした。号令とともに船外に設置されたシャンパンが割れる映像が映し出されると、船内の会場(オーシャンステージ)は大きな拍手に包まれました。
就航後、日本全国を航行するMITSUI OCEAN SAKURAの船体
命名の瞬間シャンパンセレモニーを見つめる商船三井クルーズの社員
商船三井クルーズ向井社長によるウエルカムスピーチ
オーシャンステージはメディア関係、旅行関係の人で満席に
私たちは「にっぽん丸」を2012年から、コロナ禍を挟みながらも毎年チャーターしてきました。長年、日本のクルーズをけん引してきた船であり、当社のお客さまにも多くのファンがいます。そのにっぽん丸で出あったクルーたちが、サクラにはたくさん乗船していました。そこに姉妹船「三井オーシャンフジ」で経験を重ねたクルーが加わります。
“MITSUI OCEAN SAKURA”のウエルカムボード。そして懐かしいクルー、新しいクルーたちの出迎えを受ける
そして、サクラの大きな特徴の1つが日本船籍であること。姉妹船フジが外国船籍であるのに対し、サクラは日本船籍です。国内の港を結ぶ日数の短いクルーズが可能になるだけでなく、船長をはじめ日本人を中心とした運航体制が敷かれています。日本の海をめぐり、日本のお客さまを迎える船として、この違いは決して小さなものではありません。
船尾には日本船籍を証明する「TOKYO」の文字が
ふじ丸、にっぽん丸と受け継がれた商船三井客船の軌跡
船旅の印象を決めるのは、設備の新しさだけではありません。数日間をともに過ごすクルーの何気ない声がけや気遣い。その積み重ねが、いつしか船そのものへの親しみに変わっていきます。 そういえば少し前、フジに乗船した時のこと。下船前日の夕食から客室へ戻ると、ベッドの上には大きなタオルオブジェが置かれ、その傍らには客室係からの手書きのメッセージが添えられていました。
三井オーシャンサクラは約3万4,000トン、乗客定員458名。近年の巨大なクルーズ船と比べれば、驚くほどコンパクトです。船内の端から端まで歩いても5分ほど。だからこそ、何日か過ごすうちにクルーと顔見知りになり、船そのものにも親しみが生まれる。船は新しくなっても、船旅をつくるのはやはり「人」。
にっぽん丸が大切にしてきた日本の船旅の良さを、この船にも感じました。
一方で、客室は大きく進化しています。
にっぽん丸では、スタンダードな客室は窓のあるタイプが中心で、バルコニーを備えた上位カテゴリーの客室は限られていました。サクラでは、全室海を望むスイートルームで、ほとんどの客室がベランダ付きという贅沢な仕様(オーシャンビュースイート(26室)のみ、大きな窓となります)。ゆとりある居住空間にウォークインクローゼット、さらにバスタブも備わります。
船首に2部屋あるシグネチャースイート
言ってみれば、にっぽん丸では特別だった滞在が、サクラではスタンダードになる。姉妹船フジと基本的な造りは共通していますが、実際に客室を確認すると、ベッドはフジより約15センチ低くなり、乗り降りもしやすくなっていました。フジにはなかったオリジナルポーチなど、ちょっとうれしいアメニティも加わっています。
日本船船籍のSAKURAは客室のベッド高さも日本仕様に
SAKURAにはじめて採用されたアメニティポーチ
客室にはウェルカムスパークリングワインが(写真はシグネチャースイート)
5泊6日の船旅だからこそ、客室は単に眠る場所ではありません。海を眺め、自分の部屋に戻ってほっとする。その時間まで含めて、船旅なのだとあらためて感じます。
そして実際に船内を歩いてみると、今回のチャータークルーズで乗客数を最大350名とする意味も、より具体的に見えてきました。当社のチャーターはこれまでも、最大乗船人数よりもだいぶ絞ってご案内してきました。食事を2回の入れ替え制にせず、夜のエンターテインメント、その後の時間まで、一律にお楽しみいただくためです。
サクラには、メインダイニング、ビュッフェがメインのテラスレストランをはじめ、有料レストランの「北斎ファインダイニング」や寿司レストラン、それにランチ中心のプールデッキの軽食など、5つのレストランがあります。通常458名のところを350名にすることで、食事の時間にも余裕が生まれる。シアターでショーを楽しむ時も、船内イベントに参加する時も、人が集中しにくくなります。
有料のダイニング「北斎」は優雅な雰囲気に包まれる
にっぽん丸時代の名前を受け継ぐ「寿司バー潮彩」
商船三井クルーズによると、この秋就航するサクラは、9月19日の就航後、年内はほぼ満船で、平均420名のお客さまが乗船される予定とのこと。通常運航で予定されている平均約420名と比べても70名、最大定員からなら100名以上少ない350名ということは、単に「空いている」ということではありません。
レストランで待たない。席を探さない。人の流れに追われない。
船内のさまざまな場所に生まれる、その小さな余白の積み重ねこそ、私たちが最大350名にこだわる理由です。
この日は船内で昼食会も催され、食事もいただきました。同席した商船三井クルーズ前社長によると、「かなりこだわった」という美しい桜をあしらったプレートからはじまる料理は、見た目だけでなく、味わいもしっかりと記憶に残るものでした。
料理長も、“美食の船”として親しまれたにっぽん丸からサクラへ。その味の系譜もまた、新しい船へと受け継がれています。
昼食会場となったメインダイニング「桜」
客船の名にちなんで富士山と桜をあしらったショープレート
昼食会のメインディッシュ
雨のため、デッキで過ごすことはほとんどできませんでした。それでも船を降りる頃には、3月の景色が少し見えたような気がしました。
横浜を出航し、種子島へ。そして宮崎・日南海岸の油津港へ。夜には船上からミニ花火大会を眺めます。
新しくなった客室。受け継がれた味。そして、懐かしいクルーたち。
2027年3月、このサクラに350名のお客さまをお迎えした時、どんな船旅が生まれるのでしょう。
その時はじめて、「私たちのサクラ」が完成するのかもしれません。